(スポーツライター:酒井 政人)
「棄権」を覚悟で攻め込んだ鈴木
「10000mの国内最速記録を目指す」という大会コンセプトを掲げる「2024八王子ロングディスタンス」。昨年は佐藤圭汰(駒大)が27分29秒69のU20日本記録(当時)で日本人トップを飾ったが、今年の最終8組(S)はさらに上を目指した。ウェーブライトは緑がややビルドアップの26分59秒、赤がイーブンペースの27分15秒に設定されたのだ。
10000mの“26分台”は日本記録(27分09秒80)を大きく上回り、来年開催される東京世界陸上の参加標準記録(27分00秒00)を突破するタイムになる。
19時の天候は晴れ、気温10.5度、湿度56%、東南東の風0.2m。絶好のコンディションのなか、6人の日本人選手が“未知なるペース”に挑戦した。
序盤は篠原倖太朗(駒大4)が上位につけて、緑のウェーブライトと並走する。1000mを2分42秒4で入ると、3000mを8分08秒4で通過。その後、篠原は遅れるが、今度は鈴木芽吹(トヨタ自動車)が上位でレースを展開して、5000mを13分35秒4で通過した。
しかし、ペースメーカーが苦しくなり、先頭集団は徐々に緑のウェーブライトから引き離されていく。「明らかに遅かったので、自分でいくしかない」と鈴木はペースメーカーの前に出て、引っ張った。それでも今度は赤のウェーブライトに飲み込まれた。
終盤は思うようにペースが上がらないなかで、シン・ガルビアー(インド)がナショナル記録を20秒近くも塗り替える27分14秒88で優勝。鈴木は全体4位となる27分20秒33でフィニッシュした。自己ベスト(27分26秒67)を更新する日本歴代5位の好タイムも笑顔はなかった。
「今日は26分台を出すつもりで来て、垂れたら棄権してもいいぐらいの気持ちでした。正直、ちょっとベストを更新するくらいでは出場した意味がありません。自分の実力不足で引っ張りきれなくて、最後は余裕がなくなってしまったので、本当に悔しいです」
26分台への初チャレンジは簡単なものではなかったが、手応えもつかんでいる。
「今季は5000mに取り組んできたこともあり、26分台ペースでいく怖さはなくなりましたし、5000mまで余裕度は結構ありました。その後も引っ張ってもらっていたら、どこまでいけたかはわからないですけど、26分台への自信というか希望は自分のなかですごく見えているかなと思います」
今後はニューイヤー駅伝を経て、来季は東京世界陸上を目指していく。
「ニューイヤー駅伝で会社に恩返ししたいです。強い先輩方の力を借りながら、僕も優勝メンバーの一員になれたらうれしいなと思います。トラックに向けては、もう一回しっかり作り直して、10000mだけでなく、5000mでも東京世界陸上を目指せるように、両種目の強化をしていきたいなと思います」