部下の成長を思って叱っても委縮させて終わってしまう、かといって「褒めて伸ばす」方法もわからないーー。

 チームで仕事をする中で「部下とのコミュニケーション」に悩むリーダーが多いのではないだろうか。

 そこで『世界最高の話し方』 『世界最高の雑談力』の著者で、社長や企業幹部1000人以上の話し方を変えたという伝説の家庭教師・岡本純子さんに、これからのリーダーに求められる「褒め方」「叱り方」についてお話しいただいた。

(本稿はシンクロナスで配信中『「話し下手は損をする?」スキルで上げるトーク力』〈動画〉を編集した前編)

令和のリーダに求められる話し方とは?

−− 今、日本の経営者や管理職などの“リーダー” に求められているものとはなんですか?

 やはり人の心を動かすことができる “話し方”です。

 これまで多くの日本のビジネスパーソンに話し方の指導をしてきましたが、相手に刺さる話し方ができている人はほんの一握り。

 コミュニケーション能力に自信がある方でも、グローバルスタンダードの視点で見ると、まだまだ改善の余地がある人が本当に多くいます。

 昭和の日本企業では、トップダウンで指示を出す “強権型” の指導力が求められていましたが、今では部下に寄り添い自立させる “共感型” のリーダーが主流です。

 人にただ命令をするだけでは、自発的な成長を促すことはできません。

 部下を叱りつけても、恐怖心で謝るか、反発するかのどちらかです。

 一方で、間違った行動や仕事を肯定的に指摘し、正しい方向に導いていくことで、効果的に人を成長させることができます。

 ただ叱るだけの破壊的なフィードバックを行うよりも、対話をベースとした“建設的” なフィードバックを続けることで、相手が自ら変わっていく“土壌”を作ってあげる。

 そのためには、まずリーダーの話し方から変えていく必要があるんです。

「部下のために…」は間違っている?

2023WBC日本代表監督の栗山英樹さんを例に令和のリーダーに求められる「話し方」を解説する岡本純子さん

−− 相手のために叱ることで反骨精神を育むという考えの方もいますよね?

 なかには、辛い経験を積むことで忍耐力が鍛えられ、成長できると考える人もいますよね。

 でも、その人たちが本当に上司から叱られたことで、これまで成長してきたかと聞くと、実はそうでもないという人がほとんどなんです。

 仕事をすること自体がチャレンジングなことなので、別に上司が負荷をかけなくても学べることはたくさんある。

 もちろん、叱ることで成長できるというロジカルな説明があれば、やってみてもいいとは思うのですが、なぜ叱ることが必要なのかがわからないまま、声を荒げてしまうのでは非合理的な結果が生まれてくるだけ。

 私も20年くらい会社員をやっていて、パワハラをしてくる上司がいました。

 しかし、強制されてやる気が出たことはほとんどありません。逆に、ただ反発心だけが芽生えるだけでした。

 当たり前のことですが “論破” と “説得” は違う。

 どちらが正しいかを問う “論破 ”では、相手の考えを根本から変えることはできません。

 でも、相手の意見を汲み取りながら正しい方向に導く“ 説得” は、より難しいことではあるのですが、相手をしっかりと納得させることができる。

 まずは、相手の話をじっくりと聴いて “共感” してあげる。そうすれば、相手がなにを求めているかがわかってくるし、どうしたら今の状況を変えられるかが見えてきます。

 これは、アメリカのハーバード大学でも教わることですし、アメリカの捜査機関が人質開放などの手段として使っていることでもあるんです。

褒め方が分からない…褒め方の方程式「ミカンの法則」とは?

−− 部下を成長させる“褒め方” のコツはありますか?

 多くの日本人は“褒められる” という経験をあまりしたことがないので、中高年の管理職の方からよく「褒め方がわからない」とご相談を受けます。

 私はこれを “褒め貧困” と呼んでいて。上の世代が部下を褒められないと、下の世代も人の褒め方がわからない。その負の連鎖が、今も日本の社会で続いているんです。

 なかには「今の若い世代は褒められてばかりいる!」という人もいますが、実際は叱られていないだけでちゃんと褒められてはいない。なので、日本の若い世代は自己肯定感が低く、自信を持てないまま働いている人が本当に多い。

 そんな “褒め方” で悩んでいるリーダーたちにオススメなのが、相手をいい気持ちにする褒め方の方程式「ミカンほかんの法則」です。

「ミ」は「認める」。相手の行動や変化を細かく観察し、「ここがよくなったね!」と言葉をかけることで、部下に自然と自信をつけさせてあげる。

「カン」は「共感する」。人間は “共感 ”をしたい生き物なので、「大変だよね」や「私も嬉しい!」と感情を表すことで、心理的な距離を近づけることができます。

「ほ」は「褒める」。ただ相手の性質や気質を褒めるだけでなく、その人の行為やプロセスを褒めてあげる。「わかりやすい資料を作ったね!」と、やったことを評価してもらえると、また新しいことに挑戦する意欲が湧いてきますよね。

 「かん」は「感謝する」。形式的な「ありがとう!」などの言葉よりも、具体的に「勇気を出して相談してくれてありがとう」といった、なにに感謝しているのかがわかる言葉で伝えましょう。

 この「ミカンほかんの法則」は、どれかひとつを選ぶのではなく、4つセットとしてすべて行うことで、効果的に部下の成長を促すことができます。

 会社での上司と部下の関係のみならず、親と子や教師と生徒の関係でも使えるコミュニケーションの鉄則なので、人を褒める時にはぜひ試してみてください。(文・坂本遼佑)

話し方の極意を教えてくれた岡本純子さんが新刊『なぜか好かれる「人前での話し方」: 「堂々と話せる人」になると一生、得する!』が11月29日より発売開始。

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