「ケア労働」にストレスをためたおじさんのはけ口
Jさんが看護師になったのは、30代後半になってからのこと。
「20代のころは工場や工事現場、トラックのドライバーなどの現場仕事をしていましたが、どれも肉体的にしんどくて。その後は調理師免許を取って、ファミレスの社員として厨房で働きましたが、朝から晩まで拘束されるのに、給料は手取り25万円くらいでした」
医療なら給料もよく、これからの高齢化社会で食いっぱぐれないだろう。そう考えたJさんは、おじさんになってから看護学校を卒業した。あれから12年。Jさんは仕事が好きではないという。
「初めの2~3年目は人のためにという気持ちがありましたが、今はない。生活のためにやっています」
看護学校で知り合った妻と、小学生の子ども二人。手取り年収は380万円、住宅ローンと高級時計のローン……。Jさんの愚痴は止まらない。
「看護師をしている人って、2パターンにわかれますよ。人に尽くしたい意識高い人か、お金のために仕方なくやる人」
入院病棟で働いているJさんは、仕事でかなりのストレスをためている様子。
「ひどい患者は看護師をバカにしている。女性看護師は患者からセクハラされるし、男性看護師は患者に暴力や暴言を受ける。こっちだって頭にきて『うるせぇ、クソ爺ぃ』って患者に言うこともあります。もちろん問題にならない範囲でこっそりとね」
患者からのセクハラやカスハラ(カスタマーハラスメント)は、看護師を悩ませる労働問題の一つだ。ある調査では、看護師の97%が「患者からカスハラを受けた経験がある」と回答している。
看護師のようなケア労働は「感情労働」である。患者のむき出しの感情を受け止めつつ、「怒り」や「悲しみ」を押し殺さなければならない。そこでは個人の「人格」というリソースが消費されていく。しかし、このリソースの対価はほとんど給料に反映されない。
蓄積されたストレスはどこかで爆発する。Jさんの場合、それはパチンコで解消されていた。
「貴重な休みの日も、体を休めることもせず、子どもの相手もせずにパチンコにのめりこんでいた。熱くなっちゃって、1回3~4万円は使ってね」
もっとも、この1年でパチンコ熱は冷めた。その代わりに彼の心をとらえているのが、ビットコインである。