7 台湾、韓国と相互防衛態勢をとれるか?

 アジア版NATOを検討するに際し、いずれの場合も避けて通れないのは、台湾と韓国との安全保障関係をどうするかという問題である。

 台湾との関係について、現在のアジア版NATO構想では明確にされていない。

 しかし、台湾は、東南アジアと北東アジアのつなぎ目に位置し、日中韓の交易路が交わり、中国にとり西太平洋への進出に際し必ず制するべき戦略的要域のため、台湾の加盟なしには、アジア版NATOは成立しない。

 このため、日本としては台湾の国家承認なしに相互防衛協力態勢の構築はできない。

 しかし日本が台湾を国家承認することは、直ちに対中国交断絶となることを意味する。

 中国は外部勢力とりわけ日米の介入を警戒しており、必要とあれば対日核恫喝、尖閣諸島制圧等による軍事的圧迫など、力を背景とする強硬策をとる可能性もある。

 日本として、政治的経済的に対中国交断絶のリスクとコストに耐えられるかどうかが問われるであろう。

 特に、現在中国国内で展開している日本企業、在留邦人は即時に逮捕拘留されあるいは資産も凍結・差し押さえられるとみられ、その保護策も問われることになる。

 韓国とも、竹島問題、歴史認識問題など未解決の課題がある。

 現在南北共に核原潜・弾道ミサイルの保有など戦力増強に努めており、軍事的な緊張が高まっている。

 今後の情勢推移いかんでは、韓国での左派政権の成立と南北統一も、逆に軍事的均衡が破れて第2次朝鮮戦争となる可能性もありうる。

 その際、日本はいずれの場合も韓国の後方支援基盤となるため、ミサイル攻撃、特殊部隊の攻撃などに晒され、半島の戦争に巻き込まれることになるであろう。

 しかし、米国の仲介なしに日韓の軍事的な連携、特に平時からの安全保障協力強化には限界がある。

 今後米国が内向きになり、日韓が相互に連携する必要性が高まるとみられるが、それには日韓間の信頼醸成、懸案事項の解決がまず求められる。

結論

 アジア版NATOは、冒頭に述べた①、②、③いずれのケースについても、実現は容易ではなく、今日明日にどうこうできる問題ではない。

 まず、日本自らが自立防衛態勢を構築するとともに、米国および周辺のアジア諸国から信頼される抑止力、阻止力を提供できる国に自己改革することが先決である。