5 アジア版集団的安全保障体制の可能性
アジア版NATOが集団的安全保障体制を意味するとした場合、米中がともに加盟する集団的安全保障体制は機能しないであろう。
中国が参加しなければ、現在のQUAD(クワッド=日米豪印戦略対話)に類似した組織になり、共同防衛については日米安保体制が基軸になるであろう。
中国が加盟し米国が参加しなければ、米国に次ぐ軍事力、とりわけ核・ミサイル戦力を持つ中国が中心となり、古来の華夷秩序の復活に等しくなるであろう。
すなわち、朝貢貿易を周辺の臣従国に許し、その代償として臣従国に対し軍事的保護を与えるという体制であり、実質的な中国を宗主国とする集団的安全保障体制、その実は、米国、あるいはロシアなどを仮想敵とする集団的自衛体制に日本が組み込まれることを意味する。
また、中国との国境紛争を抱える、核保有国であり人口大国のインドは、中国中心の安全保障体制には加わらない可能性が高い。
日本にとり最大の脅威は、今後も中国であり続けるとみられることから、日本にとりインドとの連携強化は今後とも死活的に重要である。
その意味で、日印を中心とする現在のQUADに近い体制が現実的であることになる。
またインドは建国以来、非同盟中立政策を採り、ソ連時代から武器輸入、エネルギー輸入などの面でロシアとの関係が深い。
半面、かつてはパキスタンを支援していた米国や植民地支配をしてきた英国への不信感は根強い。
そのため、日米安保体制下では、QUADの域を超えた、より緊密な日印の安全保障関係構築には一定の制約があり、集団的自衛あるいは集団的安全保障体制まで日印米豪の間に構築するのは、今後とも困難とみられる。