4.中国の党・政府と日本企業の類似性

 上記のガバナンス方式転換に伴って生じた問題は、日本の大企業が抱える問題と共通している点が多い。

 日本の大企業は2021年以降、コーポレートガバナンス強化のため社外取締役を任命することが義務付けられた。

 それ以前の2010年代以降、多くの企業において社外取締役が取締役会での意思決定に大きな影響を及ぼすようになっている。

 社外取締役に任命された人物の専門分野に関しては過去の豊富な経験や知見を基に的確な意見を述べて、経営の改善に寄与しているケースが多いと考えられる。

 しかし、中国ビジネスに関しては、そうした経験や知見をもつ社外取締役はほとんどいない。

 このため、多くの企業において的外れな意見を述べ、企業の的確な経営判断を阻害しているケースが多いという苦情を頻繁に耳にする。

 最近では深圳で日本人学校の児童が刺殺されたほか、昨年7月から反スパイ法が施行されており、中国経済も以前の高度成長期の勢いはない。

 メディア報道では経済安全保障上のリスクもしばしば指摘されている。

 そうした一般的な情報を判断材料として自社の中国業務についても慎重論を述べる社外取締役が多いと聞く。

 しかし、中国現地の駐在員の目から中国ビジネスの実態を見ると、自社商品はそうした一般的状況に左右されず、着実に販路を拡大し、業績を伸ばすことが展望できていることも少なくない。

 その場合、現場はより積極的な事業展開を本社に対して提案するが、社外取締役による否定的な慎重意見の影響等を受けて本社取締役会の理解を得ることができず、中国現地責任者からの提案が否定されるケースが頻繁に生じている。

 加えて、日本の大企業ではコンプライアンス重視の傾向も強まっているため、経営上層部の指示を待って末端部門が行動する傾向が以前に比べて強まっている。

 その結果、取締役会での判断の遅れや誤った判断が中国ビジネス展開の足を引っ張り、深刻な悪影響を及ぼすケースが増えているのである。

 こうした日本企業の問題点と上記の中国の党・政府が直面する問題は共通点が多い。

 日本企業であれば、その問題が引き起こすマイナス作用の範囲も限られているが、中国政府の政策運営が及ぼす影響の大きさははるかに大きく、世界経済にも影響を与える。

 こうした問題の本質を中国の党中央・政府が的確に認識し、問題解決のために必要な対策を早急に実施することを期待したい。