3.7~9月期経済停滞持続の背景
筆者は7~9月期の主要経済指標が発表された直後の10月下旬に北京、広州、上海を訪問し、7~9月期の経済政策運営の実態とその背景について中国経済に詳しいエコノミスト等の見方を聞いた。
そうした見方を総合的に整理してみると、次のような事情があることが分かった。
中国では習近平政権第3期以降、党の指導を一段と強化する組織改革が実施された。
従来は国務院が党中央と連携しながら経済政策運営に必要な情勢判断を行い、経済政策の具体策を提案し、党中央の承認を得たうえで実行に移していた。
しかし、組織改革後は、党の指導を強化する方針に基づいて、党中央が経済情勢を判断して政策を決定し、国務院は指示された措置を執行するという役割分担に移行した。
経済情勢の判断と必要な具体的施策の提案の権限は国務院から党中央に移管されたのである。
その結果が象徴的に現れたのが、3月の全国人民代表大会(全人代)後に国務院総理が実施していた記者会見が取りやめられたことである。
これまでは全人代での決定内容に関して総理の記者会見が行われることが恒例だったが、本年以降は実施しないことが発表された。
また、中長期の経済政策運営方針を決定する三中全会の起草メンバーに総理が含まれていなかったことも新たな変化だった。
これは国家のガバナンス方式が転換され、党中央の指導が強化された結果である。
今回の7~9月の経済停滞を招いた政策対応の遅れは、この新たなガバナンス体制が十分機能していないことによるものだったと考えられる。
従来であれば、国務院の関係各部門が経済の異変に気付き、その背景を即座に分析し、必要な政策対応を党中央に提案し、承認を得たうえで速やかに実行していた。
しかし、新たなガバナンス方式の下では、国務院が党中央の指示を待つ必要がある。そのために積極的に政策提案を行うことを躊躇した。
さらにもう一つの不運も重なった。
党中央は4~6月のGDP等主要経済指標が公表された7月中旬に三中全会を開催していたため、経済指標の変化を詳しく分析する余裕がなかった。
そのため、7月末の政治局常務会議も、経済減速の詳しい背景を分析することなく強い危機感が認識されないまま開催された。
その結果、8月以降も党中央から国務院および地方政府に対して経済下支え策を一段と強化する指示が出されていなかったと推察されている。
三中全会と政治局常務会議という2つの重要会議が終わって一段落したところで党幹部が地方を視察し、厳しい現実に対する認識が深まったのは8月だった。
その認識を踏まえて9月以降具体策の実施に向けて本格的に動き始めた。習近平主席の地方視察もそうした状況の中で実施された。
党中央から国務院に対して強い指示が出され、9月24日以降、金融、不動産、株式市場対策を中心に景気刺激策が発表された。
11月に入ると、財政面からの具体的な地方財政支援策も発表された。
今後これらの政策が徐々に効果を発揮し、経済が改善に向かうことが予想される。
もし7月から8月にかけてこうした決定が下されていれば、経済はより早く改善に向かっていたと考えられる。