MLB史上「最も礼儀正しい選手」

『アーロン・ジャッジ』の著者のデヴィッド・フィッシャーは、ジャッジをMLB史上「最も礼儀正しい選手と言えるかもしれない」と評している。会話には「プリーズ」と「サンキュー」が頻繁に出てくる、試合のあとも遊びには行かない、バーやクラブには近づかない、のだという。

「野球ができるのは人生でほんの短い間だけ。一分一秒たりとも無駄にしたくない。全身全霊で野球に向き合いたい」とどこまでも真摯である。

 これは、記者にニューヨークのどこが好きかと問われた大谷翔平が、ニューヨークは球場しか知らない、と答えたのに通じている。マスコミでちやほやされても、ジャッジが「鼻高々になったり、尊大な態度をとったりすることはない」。

 ヤンキースタジアムでジャッジの打順になると、「背番号99、ジャッジ。オール・ライズ(全員起立)」と場内アナウンスが響くという。アメリカ映画の法廷シーンで裁判官(ジャッジ)が入場すると、「オール・ライズ」の声が法廷に響くのはおなじみだが、それを真似ているのだ。ジャッジがファンから好かれている証拠である。

 ジャッジは現在も慈善活動に励んでいる。2018年にアーロン・ジャッジ・オール・ライズ財団を設立し、母親を事務局長に任命した。財団では、子供向けのキャンプやプログラムなどを企画している。そんな活動が評価され、昨年、「ロベルト・クレメンテ賞」を受賞している。

 ジャッジは敬虔なクリスチャンである。結婚したのは、高校時代から交際していた女性である。芸能人でもモデルでもない。断然、好感がもてるのだ。

 ジャッジという人間を知れば知るほど、好きになる。

ジャッジに送った大谷のメッセージ

 映画「マネーボール」で、試合に負けても、ロッカールームで腰を振って騒ぐ選手たちの場面があったが、ジャッジはそういう軽薄なパーリーピーポー(パーティ好き人間)ではない。

「自分を律し、目標を高く持つこと」という生き方において、大谷翔平とアーロン・ジャッジはよく似ているのである。

 そんなジャッジだが、ポストシーズンにはなぜか、弱い。

 今年のワールドシリーズ終了後、大量の誹謗中傷にインスタグラムを閉鎖したジャッジに対して、大谷はこんな応援メッセージを送ったという。

「大舞台に立つプレッシャーを知ってるからこそ、そのプレッシャーに真正面から立ち向かうジャッジの姿を尊敬している。アーロンがどれほどの努力を重ねてきたかを知っているからこそ、彼の苦しみを少しでも和らげられたなら嬉しいです」

 つい、「士は己を知る者の為に死す」という『史記』の言葉を思い出した。

 立派な人間は、自分の真価を知ってくれる者のためになら、死を持って報いることもいとわない、という意味の言葉だが、まさか死ぬこともない。

 想像もできないプレッシャーの重圧に耐えることの苦しさを知るのは、互いの真価をわかりあえるジャッジと大谷翔平かもしれない、という気がするのである。