「マイナンバーの呪い」がもたらした恐るべき非効率
つまり、診療記録などは個人単位の被保険者番号で管理されており、その番号が電子証明書のシリアル番号に紐付けられ、そのシリアル番号がカードの所有者と結合しているという仕組みだ。
無論、被保険者番号は引越しや転職で保険者が変わるたびに変わる。そして電子証明書のシリアル番号は有効期限による更新や失効・登録で変わる。人間の運用ミスを想定すると、この二重で変わる番号を正確に管理できる保証はない。
運用ミスで自分の診療記録が紐付けられていなかった、あるいは他人の診療記録が紐付けられていた、という事態を想定することは恐ろしい。マイナンバーという番号そのものを使えばこのようなことは起こらない。それだけでなく、保険証の紐付け誤り、カード読み取り機器の不具合、システム切り替えのコストといった問題も解消する。
医療分野でマイナンバーを使わないことになった背景には、番号がわかると個人情報が洩れるという「マイナンバーの呪い」を医療業界が信じているからだという説もある。
そこで、厚生労働省では苦肉の策として、被保険者番号と「見えない番号」(電子証明書のシリアル番号)を紐付けることで「マイナンバーは使っていない」と強弁することになった。とはいえ、個人を確実に特定できる番号を使わなければ、シリアル番号の履歴さえ正しく管理できない。
このような矛盾を孕んだままマイナ保険証が動き出したが、ここに至るまで10年以上も費やしている。これを覆すとさらに医療分野のDXは後れを取ることになり、筆者もそれが望ましいとは思わない。
当面の間、マイナポータルで保険証情報や医療情報を慎重に確認しながら使っていく必要がある。それと同時に、医療関係者は「マイナンバーの呪い」を祓って安心して医療行為に臨めるよう、特別法制定とマイナンバーの導入および移行を要求していくべきだ。