効率性・利便性・安全性を兼ね備えた医療DXとは

 マイナンバーやマイナ保険証が切り拓く医療DXの姿を展望してみよう。まず、医療情報がデジタル化されることで、いつでもどこでも医療関係者がその情報を共有できるようになる。

 初診の病院では、問診で病歴や服薬、アレルギーなどを聞かれ、患者もあやふやな記憶を辿って説明するほかない。しかし、電子カルテがオンラインで共有されると、医師はカルテを見ながら患者に確認を取ることでより正確に患者の状況を把握することができる。救急搬送された急患の対応でも、マイナンバーで医療情報が即時に照会できれば、より適切な判断・処置が可能となる。

 現状ではマイナポータルで薬の情報が見られるが、即時で情報が更新されておらず、従来通りお薬手帳が必要だという批判もある。しかし、緊急の際にはこのような情報があるだけでも医療行為の一助となり、このような基盤を拡張することで即時情報も可能となり、お薬手帳も不要となっていく。

 次に、マイナンバーやマイナ保険証の活用で、確実な本人確認のもと正確なデータの蓄積が可能となり、疫学研究や予防医療、医薬品開発などへの活用が期待される。つまり治療(一次利用)から研究・医薬品開発などへの活用(二次利用)が可能となる。

 現状の医療データで最も悉皆性が高く汎用性のある情報は、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)、DPCデータベース、KDB(国保データベース)の3つのデータベースに集約されている。

 しかし、データを管理するIDが統一されていないため、それぞれ「保険者番号や氏名が変更されるとデータの結合ができない」「同一患者でも別の病院では別のデータ識別番号になる」「被用者保険の情報が含まれず、保険制度が切り替わった場合に個人の生涯に亘るデータ分析ができない」という欠点がある。

 医療分野においては、AIなどのデジタル技術やデータを駆使した研究などが大きく期待されているが、データの量だけでなく質が大きな問題となる。マイナンバーをIDとしてマイナ保険証を活用すれば、正確なデータを蓄積することが可能となり、日本の医療の進歩に大いに役立つ。

 さらに、医療が介護や福祉とも連携し、より一層国民が安心して生活できる環境を実現することができる。介護保険や福祉ではすでにマイナンバーが使われており、医療も含めた連携でデータが共有されるとともに、新たな政策形成にも活かせる。

 自治体の現場では、2025年度を目途に情報システムの標準化・共通化が進行している。短期間のため作業の厳しさが増しているが、社会保障や税の制度運用を担っているのは自治体であり、制度改革で全国自治体のシステムを一気に変更するうえでは必要な事業だ。

 国民が安心して生活できるよう、医療・介護・福祉のデータを連携し、効率性・利便性・安全性を兼ね備えた仕組み実現のための布石と考えるべきだろう。