多くのアメリカ人にダメ出しされた民主党の過剰で傲慢な啓蒙主義

 とりわけ、2016年の大統領選でヒラリー・クリントンさんが同じくトランプさんに負けたときの総括として、民主党はヒラリーの個性に引っ張られて、都市部の意識高い女性やLGBT、環境問題など本来のアメリカ人有権者が求めるイシューと異なる争点を掲げて敗北した、としていました。「押しつけがましい人権主義だ」という批判は、いわゆるプアホワイトだけでなく、激戦区の勤労世帯からも出ていたわけです。

 それが8年を経過した2024年には、まったく同じような構造でハリスさんが敗北に至ったのは非常に興味深いところです。いわゆる「アメリカの統合」よりも「アメリカの分断」を象徴するかのような候補が、皮肉なことにカラードであり女性であるハリスさんだったという結論になりかねません。

 特に、有権者の傾向を本来は性別や学歴で分類し、都市部とそれ以外、白人と黒人とヒスパニックとそれ以外、所得層、家族構成や年齢といった、細かく属性別に分けてどの層がどこの激戦区に何割住んでいて、どのぐらいの支持傾向であったのかと分断して調べていって、結果、民主党が負けると「低所得層がトランプを支持した」と分析し、結論付けるのもどうなのかなと思うわけです。

 もちろん、属性やコミュニティでどう共和党・民主党の政策が受け入れられてきたかも大事なんですが、何よりインフレがアメリカの国民生活を直撃し、バイデン政権ではうまく対応できなかったことを考えれば、その副大統領であったハリスさんへの支持は集まりづらいことぐらいは分かるはずです。

 言い換えれば、「勉強ができて高所得で都市部に仕事を構える私たちの言うことを、ラストベルト地帯で貧困にあえいで、日曜は教会に行く駄目なアメリカ人は聞くべきだ」という傲慢な啓蒙主義が敬遠された、とも言えます。お前らが経済政策で下手を打ったから生活は苦しくなったのだ、偉そうに人権その他の綺麗事を押し付けてくるな、と。

 特に、激戦となったペンシルベニア州では、前回、民主党のバイデンさんに投票した黒人層が、実に3割近く共和党トランプさんに支持替えするなど民主党総崩れとも言える現象を示しました。事前の調査では、おおむね民主党が強いと判定されていたにもかかわらず、です。

 ここは、メディアによる世論調査のバイアスと、最終的な投票時点での調査結果との差異が強く表れているところです。

 ビジネスパーソン向けの高額な社会調査では、実に10月末日までの調査では4ポイント差でカマラ・ハリスさん有利の判定を出していました。多少の数字の振れはあるとはいえ、それなりに予算を使った大規模な調査結果で、ここまで大きく外すというのはいささか信じがたいレベルです。

 また、統計的な手法を得意とする選挙予測の大御所も、「データではトランプ有利だけど当選するのはハリス」といわんばかりのご宣託もありましたので、やはりメディアや観測者の党派性はある程度あったのではないかと思わざるを得ません。