「扶養枠」制度を変えない限り抜本的な解決はできない

 以前当サイトに書いた記事(“年収の壁”は103万円だけではない!複雑すぎる適用条件を把握して「働き損」を回避する2つのベストな方法)の中でも指摘したように、年収の壁を巡っては、制度がややこしくて理解しがたいという根本的な問題があります。

働き控え拡大が懸念される「年収の壁」だが、大きな誤解も働き控え拡大が懸念される「年収の壁」だが、大きな誤解も(図表:共同通信社)
拡大画像表示

 そこにキャッチーだからか103万円の壁対策として打ち出し、あたかも年収の壁を解消するための施策であるかのように見えてしまうと、年収の壁を巡る制度の全体像が余計に分かりづらくなってしまいかねません。

 国民民主党が掲げる103万円の壁引き上げ施策は、実現できれば103万円超の給与収入を得ている全ての人の手取りを増やす効果があります。それ自体は意義ある施策だと思いますが、一方で103万円の壁という言葉が独り歩きしてしまっていることについては、強烈な違和感を覚えます。

 それがミスリードとなり、103万円が178万円に引き上げられることで年収の壁の問題が解決するかのような誤解を招いてしまったり、アピールが高じて誰もが75万円も手取りが増えるかのような幻想を抱かせてしまうとしたら、期待だけをむやみに膨らませてしまう事態になりかねません。

 現状の問題を誤解なく分かりやすく伝えることも、政治の大切な役割であるはずです。年収の壁は、扶養枠という人々の生活の中に長く浸透してきた制度を変えなければ抜本的に解決できない問題であり、所得税の最低ラインを103万円から178万円にしたから解決されるものではありません。

 103万円の壁などと年収の壁と混同しやすい表現は用いず、「103万円の底」といった具合に表現した方が不要な誤解を招かないのではないでしょうか。

 また、178万円は2024年の最低賃金1055円をもとにしています。しかし、石破首相は2020年代に最低賃金1500円を目指すと述べています。その金額を基準にすると、「103万円の底」を数年のうちに、2.45倍である253万円まで引き上げることを併せて検討する必要があることも忘れてはなりません。

国民民主党の玉木雄一郎代表と石破茂首相国民民主党の玉木雄一郎代表(左)と石破茂首相(写真:共同通信社)

【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。