フランスが編み出した「NATO軍事機構からの脱退」という裏技

 ただ、トランプ氏が返り咲いた場合、国防費はGDP比4%に大幅に増やすべきと加盟国に圧力をかけ、達成を拒否する加盟国に対してアメリカは防衛の義務を負わず、さらには「脱退」もちらつかせるのではないかと警戒する向きもある。

 この場合、米議会の猛反発を避けるため、NATOから“丸ごと”抜けるわけではなく、傘下の数ある部局の一部から離脱するとの臆測もある。いわゆる「フランス方式」だ。

 NATO創設当時からのメンバーで西側の主軸でもあるフランスは、かつて40年以上もNATOから抜けた状態だった。1966年に「誇り高きフランス」にこだわる当時のドゴール大統領は、NATOを主導する米英にライバル心をむき出しにしたのが原因で、正確には「軍事機構」だけの離脱だった。フランスの核兵器保有に米英が反対したことも遠因にある。

 NATOには加盟各国が軍事力を持ち寄り構成する「NATO軍」が数個あり、各部隊の司令部を束ねる「軍事委員会」が存在する。他に「理事会」「政治委員会」「経済委員会」など非軍事の部門もあるが、軍事委員会はNATOの軍事機構の肝と言える。

NATO軍の旗の下に集まり訓練に臨むアメリカ、ポーランド、フランス、スウェーデンの各戦車部隊NATO軍の旗の下に集まり訓練に臨むアメリカ、ポーランド、フランス、スウェーデンの各戦車部隊(写真:米陸軍ウェブサイトより)

 フランスは軍事機構だけから退会して、自国軍をNATOの指揮下に置かないとしながらも、一方で非軍事部門には引き続きとどまるスタンスを見せ、あくまでもNATOに籍を置いた。

 実際の軍事活動では西側の一員として米英やNATO各国と共同歩調を取り、1999年のユーゴスラビア(コソボ)空爆や、2001年にはNATO初の集団的自衛権の発動となったアフガニスタン攻撃などにもフランスは積極的に参加している。ちなみに正式に軍事機構に復帰したのは2009年である。

 トランプ氏がかつてアメリカやNATOを悩ませたフランス方式を逆手に取り、国防費のさらなる増額をNATO加盟国に強いて、その分アメリカのNATO負担金を大幅に圧縮しようと考えても不思議ではないだろう。