ウクライナへの軍事支援を敬遠するNATO加盟国が増えかねない
アメリカは主力兵器の供与に特に慎重で、射程約160kmのATACMS陸軍戦術ミサイルを皮切りに、M-1戦車、F-16戦闘機、射程300km以上の長射程型ATACMSなどは、ゼレンスキー氏が再三供与を打診しても応じず、結果的にロシア側に対応する時間的余裕を与える格好となっている。
もちろん慎重さは国際政治的には有意義かもしれない。だが純軍事的には「逐次投入」、つまり瀬踏みをしながら恐る恐る少しずつ戦場に投入するのは愚策だ。本来なら必勝のはずの軍隊が大敗する事例は、世界の戦史上枚挙にいとまがない。
現在のところウクライナ軍将兵の高い士気と戦闘力や巧みなドローン戦術、西側からの近代兵器の供給などにより、人海戦術でゴリ押しするロシア軍の進撃を何とか食い止めている。片やロシア側の犠牲者は一説には20万人以上に達し、兵員不足にあえいでいるとも言われる。だが長期戦・消耗戦になれば、人口や資源で圧倒的なロシアに有利である。
これらを考えると、仮にハリス氏が新しい大統領に就任したとして、いつまでもバイデン路線を墨守して「優柔不断」「逐次投入」で臨めば、ウクライナの劣勢は決定的になる可能性が高くなる。
しかも、こうなると深刻なのが「勝ち馬に乗れ」とばかりにロシアに接近する国が増えることだ。すでにハンガリーやスロバキアなどはウクライナへの追加支援に難色を示しているが、最悪の場合、NATO加盟国の中からウクライナへの軍事支援をあからさまに敬遠する国が続出しかねない。
どこかのタイミングで、ウクライナ軍が劇的な反撃によりロシア侵略軍を押し戻し、一定の軍事的勝利を収めない限り、納税者であるアメリカ国民から「巨額の軍事援助を与えても戦況に進展が見えない。税金の無駄遣いだ」との批判が大きくなりかねない。
さらには「ロシアに痛打を与えられず、出口の見えない戦いを続けるだけでは犠牲者が増えるばかりで、これでは人権を重んじるハリス氏や民主党としては本末転倒」との厳しい指摘が身内の民主党左派からも出るかもしれない。
米国内の厭戦気分を払拭させ、トランプ氏率いる米共和党から「弱腰外交」とレッテル貼られるのを阻止するためにも、ハリス氏は大統領就任後、早い段階で形勢逆転の秘策を実行するのではないだろうか。