米国製の長射程ミサイルによる「ロシア本土攻撃」を容認か
この場合、今年10月にゼレンスキー氏が公表した「勝利計画」の実施が可能性として高い。第2項目の「防衛強化」に掲げた、欧米製長距離ミサイルを使ったロシア本土攻撃を、ついにゼレンスキー氏に“解禁”するかもしれない。
これは前出の長距離型ATACMSや戦闘機から発射する英仏共同開発の巡航ミサイルストームシャドー/SCALP-EG(射程250kmだが本国向けは560km。米製部品が多数使われる)などだ。ゼレンスキー氏がバイデン氏に再三にわたり使用許可を求めてきたが、プーチン氏が唱える「レッドライン」(核兵器使用に踏み切る一線)を越える恐れがあるとして使用の是非で逡巡し続けるアイテムである。
ただ、バイデン氏は大統領選への悪影響を考慮したとの指摘もあるため、ハリス氏が当選すれば、ゼレンスキー氏悲願の「長射程ミサイルのロシア本土攻撃使用」に許可が下りることも十分考えられる。
プーチン氏が警告するレッドラインについては、10月に北朝鮮がロシアと締結した軍事条約「包括的戦略パートナーシップ」に基づき、ロシアの要請で1万人以上の将兵をウクライナ戦線に投入した事実を突きつければ、合理性と尊厳を重んじるプーチン氏にとってもバツが悪いはず。
「ウクライナが自衛のために欧米製ミサイルでロシア本土を攻撃するのは国際法的に問題ない」と迫れば、そもそも国連で制裁対象となっている北朝鮮に、プーチン氏自らが推進する侵略戦争に加勢してほしいと派兵を懇願しているのが実態だから、格好がつかないだろう。
もちろん対ウクライナ軍事援助はこれまで以上に手厚く行うと見られるが、問題は大統領選と同時に行われる上下両院議員選挙の行方だ。
現在上院は民主党、下院は共和党がそれぞれ過半数を握るが、下馬評では両院とも共和党が過半数を制するのではないかと見られている。この場合、11月以降に審議される2025年のウクライナへの追加軍事支援緊急予算案が、共和党の反対に阻まれて議会を通過しない恐れが高い。
同様のことは今年の予算案でも展開された。2023年の同緊急予算案(約608億ドル=約9.4兆円)が共和党の抵抗で紛糾し、最終的に議会を通過したのは、今年の4月下旬だった。この間ウクライナ軍の最前線部隊は弾薬払底の瀬戸際まで追い込まれ、大砲発射数を1日数発に抑える部隊すらあったという。
2024年の緊急予算がずれ込んだため、2025年3月ごろまでは緊急予算の“入金”が保障されるが、2025年分の予算案通過はさらに困難を極めると予想される。“ハリス新政権”にとっては、いきなりの試練だ。