国民民主の所得税の基礎控除の拡大は実現するか?
<ダブル選挙の可能性>
なお、石破政権の支持率が高まる、もしくは「石破おろし」後の新政権発足で高い支持率となるケースでは、参院選を控えて衆院を解散、衆参同日選挙(ダブル選挙)とする可能性がある。
近年は、公明党がダブル選挙に否定的なこともあり、1986年7月以来、長らく実施されていない。だが、衆院が少数与党の状態であれば、状況打開のためダブル選挙とするインセンティブが自民党には存在する。
参院選(あるいはダブル選挙)の行方を論じるのは時期尚早だが、その場合は野党間の選挙協力が進展するか否かが注目される。先述の通り、立憲民主党は野党結集を目指しているが、国民民主党や日本維新の会は是々非々で政策を議論する方向性にある。野党間の選挙協力はなかなか進まないのではないか。
<経済政策の行方>
先行きの経済政策はどうなるであろうか。基本的には財政拡張と金融緩和のポリシーミックスが選好される、との見方に変わりはない。
財政については、もともと石破首相は拡張的な路線であるが、国民民主党の協力を仰ぐこともあり、積極財政路線が採られやすい。10月31日、自民党と国民民主党は幹事長・国会対策委員長会談(いわゆる二幹二国)を行い、総合経済対策や予算、税制改正などの政策協議を開始することで合意した。
<所得税の控除拡大>
国民民主党の玉木代表は、所得税の基礎控除等を103万円から178万円へ拡大する公約の実現を最重視している。控除拡大が実現しなければ、予算にも法案にも協力できないとの姿勢だ。
林官房長官は10月31日の記者会見で、国民民主党の主張通り控除を拡大すれば、国・地方合わせて7~8兆円程度の減収になる指摘した。
筆者試算では、国税収入は2023年度の72.1兆円から2024年度に72.0兆円程度へ微減となった後、2025年度に77.1兆円程度へ大きく増加、過去最大を更新する見込みだ。控除拡大が実現すれば、この税収増加分を吐き出す(国民へ還元する)格好となろう。
2025年度の国・一般会計当初予算において、所得税の減収分は税収見積もりに反映され、住民税の減収分は地方交付税交付金等の増額として措置される見込みだ。
<国民と維新のスタンスは異なる>
先述の通り、与党には日本維新の会と協力する選択肢も残されている。公明党は、日本維新の会の連立入りを拒否も、政策ごとの連携までは拒まないであろう。
国民民主党は積極財政路線だが、日本維新の会は規制緩和、減税、歳出カットを志向する「小さな政府」路線と考えられる。現時点で石破首相は国民民主党との連携を優先しようが、場合によっては日本維新の会との連携に舵を切る、もしくは政策ごとに協力関係を使い分ける選択肢もあろう。
【宮前 耕也(みやまえ こうや)】
SMBC日興証券㈱日本担当シニアエコノミスト
1979年生まれ、大阪府出身。1997年に私立清風南海高等学校を卒業。2002年に東京大学経済学部を卒業後、大阪ガス㈱入社。2006年に財務省へ出向、大臣官房総合政策課調査員として日本経済、財政、エネルギー市場の分析に従事。2008年に野村證券㈱入社、債券アナリスト兼エコノミストとして日本経済、金融政策の分析に従事。2011年にSMBC日興証券㈱入社。エコノミスト、シニア財政アナリスト等を経て現職。
著書に、『アベノミクス2020-人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム社、単著)、『図説 日本の財政(平成18年度版)』および『図説 日本の財政(平成19年度版)』(東洋経済新報社、分担執筆)がある。