そうした流れの中で、土葬はどんどん消滅していった。現在、伝統的な土葬習俗が残るのは滋賀や奈良、京都南部、三重など関西を中心にごくわずか(年間数体とみられる)。特殊な例として、死胎(水子)を土葬する地域がある。

 その他の土葬は、「日本在住のムスリムが亡くなった場合」である。たとえば日本人と外国人のムスリムが国際結婚をし、日本で暮らして亡くなるケース。また、外国人技能実習生や、留学生が国内で病気や事故などで亡くなる場合。さらに日本で死産したケースなど、さまざまである。

カトリック教会が墓不足の救世主に

 現在、日本に在住する外国人ムスリムは18万人以上、日本人ムスリムが4万人以上といわれている。国別ではインドネシア、バングラデシュ、マレーシア、イラン、トルコ、エジプトなどさまざまだ。日本におけるムスリム人口は、過去10年で2倍になったとの推計もある。仮に同じペースで増え続けるとすると、2040(令和22)年には、日本のムスリム人口が70万人ほどになる。

 大分県でもムスリムが増加傾向にある。技能実習生の受け入れ先は農業、漁業関連のほか、自動車やアパレルの工場など。ムスリムは貴重な労働力になっており、地域経済を支えている。

 また大分県には、学生・教員ともに半数が外国籍という立命館アジア太平洋大学(APU)がある。大学関係だけでも数百人のムスリムがいるといわれる。

 ところが、死後の受け皿がまったく整っていない。現在、わが国におけるムスリムが埋葬できる土葬墓地は北海道、茨城県や埼玉県、山梨県など東日本に7か所、西日本では京都府と和歌山県、兵庫県、広島県に4か所あるだけだ。九州にはひとつもない。

 そのため、九州や四国在住のムスリムが亡くなった場合は、何百kmも離れた埋葬地(あるいは本国)へ遺体を運搬する必要がでてくる。その費用は数百万円単位になり、その後の墓参にかかる旅費などもバカにならない。墓の問題を抱える日本で、ムスリムは安心して死ねないのだ。