そんな状況に救いの手を差し伸べたのが、カトリック別府教会だった。地元ムスリムに対し、好意で土葬墓地を提供してきた。

 先述のようにキリスト教、とりわけカトリックは原則的には土葬である。そこで、別府教会が所有する神父用の土葬墓地や、大分トラピスト修道院の土葬墓地の一画を提供した。しかし、その区画数はわずか。あくまでも急場凌ぎであり、すぐに埋まってしまうことが予想された。

 そこで、別府ムスリム協会はムスリム専用の土葬墓用地の整備を決意。日出町の民有地を購入したのが2018(平成30)年のことだった。そこでは100区画ほどの整備を予定していた。

反対する住民、二転三転する候補地

 同時に、住民説明会も繰り返し開かれた。ちなみに土葬は墓地埋葬法では禁止されていない。地元の条例にも適合しているため、町長の許可があれば土葬墓地設置が可能になる。

 しかし、地元住民らが反発した。町長や町議会に対して土葬墓地反対の陳情書を提出。反対の理由は①飲料水を湧水で賄っているので、水質汚染が心配 ②米、肉、野菜、卵など地元農作物への風評被害につながる ③土葬墓地の少ない西日本全域から墓地を求めて多くのムスリムがやってくることになり、土葬墓地がどんどん増設されていくのではないか——などだった。

 それに対して、ムスリム協会側は反論した。水質汚染に関しては、土葬墓地予定地から水源地まで2kmも離れている。また、ほかの地域の土葬墓地周辺では水質の問題が起きた事例はない。風評被害についても、墓地予定地の隣接地にはトラピスト修道院の土葬墓地があって、これまで風評被害は出たことがない。墓地開設後の埋葬者も年間2〜3人程度と見込んでいる――などと主張した。

 日出町議会は住民の反対の陳情書に対し、賛成多数で採択。そこで、折衷案として土葬墓地候補地を別の場所の町有地に移した。住民の事前協議も終え、いよいよ正式に申請すれば町が許可を出し、土葬墓地整備に取り掛かれるとみられていた。

イスラム教徒のための土葬可能な専用墓地の建設が計画されている(写真:共同通信社)