スズキが目指す「小型軽量化戦略」の真髄とは?
そして環境。先に述べたようにスズキは電気自動車か内燃機関かという技術の選択ではなく、小型軽量であることは資源採掘から生産、使用、そして廃棄までのCO2排出量をトータルでみる「カーボンフットプリント」が大きいか小さいかを物差しとする新たな環境戦略を打ち出している。フロンクスはその実践例という役割も担う。
「豊かな居住性を持たせながら全長4m以下というコンパクトな車体にまとめることができた。次も『エスクード』(スズキがかつて販売していたコンパクトクラスSUV)に乗ろうと考えていらっしゃったお客さまがこのクルマに移行し、『コンパクトで環境にいい』と言ってもらえるとすれば、それはとても良いことなのではないかと思う」(鈴木社長)
スズキはアルトの次世代型の車両重量を現行モデルから100kgダイエットさせると表明しているが、クルマを軽くすることだけが軽量化の手段ではない。上級クラスの顧客をより小型のモデルに誘導する、いわゆるダウンサイジングはモデル別の軽量化以上に効果を得られる。
これは小型車専業のスズキが他社からシェアを奪うと宣言しているに等しい、かなり急進的なプランだが、計画台数は少ないながらもフロンクスで他ブランドの移行客を獲得できれば、小型軽量化戦略に大いに弾みをつけることができる。
全長4mという普通車のSUVとしてはミニマムに近いサイズのフロンクスだが、ブランド、世界生産、環境と多様なチャレンジが込められた、スズキにとってはメルクマールとも言えるモデル。
インドでは発売後最速で販売台数20万台超えというスマッシュヒットになっている。今後日本にどのくらいの台数が振り向けられるかは未知数だが、販売の行方は大いに興味深い。
【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。