第二・第三の機能の指標が不可欠

 公共交通が黒字であることにこだわって、第二、第三の機能が全うできないのは、社会的に望ましい状態ではないし、本末転倒だろう。

 むしろ、第二、第三の機能を全うするためには何を目指し 、どのようにサービスを構築し運営したらいいのか。それを実現する公共交通をまかなう財源は、どこからどのように調達すればいいのか。

「赤字か黒字か」から脱して、第二の社会のセーフティーネットとしての機能はもちろんであるが、さらに踏み込んで、第三の機能である自動車の問題を緩和・除去する役割を十分引き出すための問題設定に議論の枠組みを転換することが、公共交通のポテンシャルを引き出す重要な第一歩である。

 議論をするためには、なんらかの指標が必要である。

 第一の機能、つまり事業としての公共交通に対する指標は、収入や支出という非常にわかりやすいものであり、「収支」あるいはその結果としての「赤字」として驚くほど頻繁に議論に登場する。

 また、日本の議論では「輸送密度」あるいは「平均通過人員」という、路線延長1kmあたり1日何人が利用しているかという指標もよく使われるが、これはインフラやサービスの利用状況の指標であり、やはり第一の機能に付随する指標だ。

 では、第二や第三の機能を公共交通がどの程度果たしているのかを指標化するには、どうしたらよいのだろうか。また、第二や第三の機能には政策的要素が多数含まれるが、その機能を公共交通に全うさせたうえでさらに黒字を求めるのは、上に書いたように巨大都市圏以外ではかなり無理がある。

 したがって、第二や第三の機能を全うさせるには、公共交通運営に公的資金を投入する必要が出てくる。先ほど議論には指標が必要であると述べたが、実はこうした政策にかかわる意思決定にも指標が欠かせない。

 特に、日本のように民主的で透明性のある政策決定が重要な国では、なおさらである。その意味でも、「収支率」や「輸送密度」のような、第一の事業という側面に注目したものとは異なる、第二、第三の機能に着目した指標が重要となる。