3.中国軍東部戦区演習の現実性の検討
(1)1日だけで統合演習ができるのか、東部戦区司令部が統合運用できるか。
1日で出港して設定した海域には到達するが、その海域で何時間作戦ができるのか。
設定した海域で多くて数時間滞在するだけであり、基本的には行って帰るだけの行動になる。
つまり、その海域を往復したという事実しかない。
(2)設定した海域にどれほどの艦艇や軍用機が参加したか。
台湾国防部の10月15日の発表によると、10月14日~15日朝までの中国軍軍用機と艦艇の台湾接近数は、軍用機110機、艦艇26隻であった。
台湾軍が発表する数値は、レーダーで確認していることから、正しい情報として認識してよい。
連合利剣演習A(5月)とB(10月)に参加した軍用機と艦艇数比較
今回の参加した軍用機・艦艇の数は、前回の連合利剣演習Aと比べて、中間線を越えた軍用機数は3倍近い。
これを2日に分けると、前回の演習より若干多い程度である。
台湾周辺に進出した軍艦と公船の数はほぼ同じである。それも1日で終了したので、中国軍としては台湾封鎖のような演習を実施して見せたといったものだろう。
台湾周辺には、通常でも1日あたり10隻近い艦艇が確認されている。今回の演習のために参加したのは、16隻前後である。
今回は6か所の設定海域があるので、これらの艦艇を各海域に分散すると、たったの2~3隻である。
(3)戦争の場合、設定した海域で遊弋できるのか。
もしも戦争の事態であれば、今回示した海域に中国軍艦艇が進出すれば、リアルタイムで台湾軍に発見されてしまう。
台湾は、発見してから中国軍艦艇と識別すれば直ちに対艦ミサイルを発射できる。1つの海域に2~3隻遊弋していれば、数分以内に爆破、撃沈できる。
実際には、台湾の海上封鎖を実施するような、中国軍の動きはなかったようだ。
なぜならば、このような海上封鎖をするには、一つひとつの海域に20隻以上、合計120隻以上の艦艇が存在しなければ封鎖はできない。
現実には、台湾国防部の発表を参考にすると、一つの海域に4隻いたかどうかのようである。
また、これらの位置に中国海軍艦艇が遊弋することは、台湾軍対艦ミサイルの射程内であるため、実際の戦争では不可能である。
中国が図示して各報道機関に流したのは、台湾を封鎖できるかのように思わせたいだけのものである。
(4)台湾に対峙する部隊が船舶で台湾に接近したのか。
揚陸艦に乗船して台湾に接近し、上陸作戦を行うのは、中国では陸戦隊(米軍では海兵隊)である。今回、陸戦隊が上陸演習を行ったのか。
上陸演習を実施するのであれば、陸戦隊が港に集結、乗船、海峡渡洋、上陸する行程を実施することになる。
これには、少なくとも1週間は必要だろう。
中国軍の情報を見ると、陸演習の詳細記事や写真がなかったので、今回は実施していないようだ。
(5)港湾と地域の閉鎖ができるのか。
参加艦艇は少なかった。
しかも、それらが設定海域で活動することは、台湾の対艦作戦能力から考えると不可能である。
それゆえ、港湾と地域の閉鎖は、金門島や馬祖島に対してはできるが、本当に実施するのは不可能である。
中国東部戦区が公表した演習海域の図は、あくまで図であって、実行可能なものではない。
つまり、台湾本島を取り囲む、包囲するぞというプロパガンダである。
(6)対艦巡航ミサイル(射程2000キロ)は、米海軍艦艇に向けられるものか。
中国東部戦区は、対艦巡航ミサイル「CJ-10」の作戦展開を行っている動画や写真を公表している。
射程が2000キロということは、台湾有事に駆けつける米海軍艦艇を狙って射撃することを見せている。
CJ-10ミサイルは、ロシア軍が保有する巡航ミサイルと同レベルの兵器と考えられる。
ウクライナ戦争では、80~90%が撃墜されていることから、米軍であれば、100%近く撃墜するだろう。
(7)爆撃機は、どのような作戦を実施するのか。
爆撃機の運用は、ウクライナ戦争でのロシア爆撃機のように、攻撃目標から1000~2000キロ離れた位置から、巡航ミサイルを発射することと考えてよい。
発射すれば、中国の対艦巡航ミサイル発射と同じ結果になる。
ロシアの場合は、5機前後を運用する場合が多い。中国軍の爆撃機は現在、戦闘機に護衛されて1機で飛行する場合がほとんどである。
1機運用というのは、ほぼ見せかけとみてよい。
(8)空母「遼寧」は、西太平洋に進出し、米日海軍と戦えるか。
海上自衛隊の情報と中国軍発表の情報によれば、中国軍空母「遼寧」が、10月13~15日の間に台湾とフィリピンとの間のバシー海峡を通過し、台湾の東の海域に進出して、艦載機の離発着訓練を関連部隊と共同で実施したようだ。
この時、随伴している駆逐艦は行きに1隻、帰りに2隻であった。
たった1~2隻の駆逐艦で、空母を守れるのか。
中国の空母は、潜水艦との連携もないと言われる。まだ、米海軍と戦える空母打撃群ではない。