「非核の戦略的抑止力パッケージ」に込めた狙い

②の「防衛強化」は文字どおり「勝利計画」の具体案で、「ウクライナでのミサイル・ドローンの量産・投資」が気になる。

兵力で劣勢なウクライナ軍はドローンを多用して善戦兵力で劣勢なウクライナ軍はドローンを多用して善戦(写真:ウクライナ国防省ウェブサイトより)

 ウクライナは欧州屈指の兵器生産国で、旧ソ連時代にドンバス地域で産出される豊富な石炭、鉄鉱石、マンガンを背景に重化学コンビナートが形成され軍需産業も盛んだった。

 ソ連邦崩壊後もこの大半を継承し、戦車・装甲車、軍艦、軍用機はもちろん、ICBM(大陸間弾道ミサイル)や各種ミサイルの研究・開発、製造技術も健在だ。

 国営兵器メーカーの「モロゾフ設計局」(T-80、T-84戦車)や「ユージュマシュ」(かつてICBM/大陸間弾道ミサイルを開発、各種ミサイル)、「ウクルオボロンブロム」(長距離ドローン、装甲車、砲弾/NATO中欧諸国と砲弾の共同生産を展開)などが国内生産を展開する。

ウクライナは欧州屈指の兵器生産国。装甲車の改造を行う国内戦車工場ウクライナは欧州屈指の兵器生産国。装甲車の改造を行う国内戦車工場(写真:ウクライナ国防省ウェブサイトより)

②には非公開の付録がつくが、ICBMよりも射程の短い中距離弾道ミサイル(IRBM。射程3000~5500km)や準中距離弾道ミサイル(MRBM。同1000~3000km)の開発・量産に欧米が協力する、という内容に言及しているとの推測もある。

 この場合あくまでも弾頭は「核」ではなく通常型(普通の爆薬)の搭載が前提だろうが、いざとなれば原水爆を遠くまで飛ばす運搬手段として使用でき、ロシアへの「抑止力」になると考えても不思議ではない。

③の「抑止力」に記された「非核の戦略的抑止力パッケージ」に、わざわざ「非核」と念押ししている点が気になる。

 ここでも非公開の付録があり、②での推測と連動して、IRBM、MRBM、さらには長距離巡航ミサイルや極超音速ミサイルなどを保有し、通常弾道だがピンポイントで首都モスクワやロシアの核ミサイル基地を攻撃できる能力の保持を意味するのだろうか。

 そうなれば、これもロシアに対する一定の抑止力となる。あるいは「非核」という表現は生物・化学兵器を収納した弾頭の使用の可能性も匂わせているのかもしれない。

フランスから供与された新型のカエサル155mm榴弾砲をロシア軍陣地に撃ち込むウクライナ砲兵部隊フランスから供与された新型のカエサル155mm榴弾砲をロシア軍陣地に撃ち込むウクライナ砲兵部隊 (写真:ウクライナ国防省ウェブサイトより)

④の「戦略上重要な地下資源」とは、明らかにウランだろう。実際ウクライナは世界屈指のウラン産出国で、世界原子力協会(WNA)によれば、2021年は世界10位の約455トン(金属ウラン換算)を誇る。

 戦争が勃発したため2022年は100トンまで急減するが、それでもロシアを除き欧州最大だ。核兵器開発に不可欠な「宝の山」をNATOの共同管理下に置くことで、ウクライナは独自の核兵器開発へと暴走できないため、NATO諸国(さらにはロシアも)を安心させようとする計算が働いているのかもしれない。

⑤の「戦後の安全保障」は“もしトラ”で在欧米軍の大幅縮小が現実のものとなった場合のいわば「保険」と言える。「ウクライナを加盟させておいた方が得ですよ」というアピールも込めているのだろう。