核実験データと核実験の提供でイスラエルと協力か?

 ゼレンスキー氏が欧米に迫った「NATO加盟か、核保有か」の二者択一は、これまでの「NATO加盟は無理」「欧米製長距離ミサイルでのロシア本土攻撃はダメ」という、煮え切らない欧米、とりわけバイデン政権の優柔不断さにしびれを切らせた挙げ句の“啖呵(たんか)”にも思える。

 だが一部では、「ウクライナはイスラエルに核兵器開発での協力を秘密裏に打診しているのでは?」との噂も出ている。

 前述したようにウウライナはウランを自前で賄え、原子力発電所も稼働させるなどの技術を備え、ミサイル技術も持つ。恐らく核兵器に関しても、旧ソ連時代の人材や技術の蓄積があるはずで、これらの活動を再開すれば原水爆開発は可能かもしれない。問題は「核実験場の確保」と「小型化」で、ウクライナ単独では困難と思われるため、外国の支援が必要だろう。

 そして米ロ中英仏の核保有5カ国に加え、インド、パキスタン、そしてすでに核兵器を保有すると国際的に見なされているイスラエル、北朝鮮の9カ国を俎上に載せれば、必然的にイスラエルが浮かび上がる。

 ゼレンスキー氏はユダヤ系であるため、イスラエルとの親和性は抜群。そのため、侵略戦争の勃発直後から、イスラエルに優秀なメルカバ戦車やアイアンドーム地対空ミサイル(SAM)の供与を何度も打診してきた。

 だが、イスラエルに暮らすユダヤ人の相当数がロシアからの移住者であることも関係し、イスラエルとロシアの関係は意外にも親密で、ウクライナへの武器援助は両国関係を損ねるとしてイスラエルは拒否し続けている。

ウクライナは高性能のアイアンドーム防空システムなど武器支援を再三打診、かたくなに拒み続けてきたイスラエルだが…ウクライナは高性能のアイアンドーム防空システムなど武器支援を再三打診、かたくなに拒み続けてきたイスラエルだが…(写真:イスラエル国防省ウェブサイトより)

 加えてイスラエルを取り巻く複雑な中東情勢も絡む。北隣には犬猿の仲のシリアがあり、内戦状態にある同国のアサド政権を支援するため、ロシア軍がシリアに駐留し、反政府勢力やイスラムテロ集団ISISを攻撃している。シリアがイスラエルに攻撃を仕掛けないための「押さえ」としてロシアが君臨している格好だ。

ロシアはシリアにも軍隊を派遣。首都ダマスカス近郊の空軍基地から発進するロシア軍のMiG31戦闘機ロシアはシリアにも軍隊を派遣。首都ダマスカス近郊の空軍基地から発進するロシア軍のMiG31戦闘機(写真:ロシア国防省ウェブサイトより)

 さらにイスラエルとは宿敵同士で、現在ミサイルで応酬している最中のイランは、シリアと盟友の関係で、しかも両国はイスラム過激派組織のハマス、ヒズボラの支援国でもある。そしてイスラエルはハマス、ヒズボラの壊滅を目指して猛攻を加えている状態だ。

 だが、ここへきてイスラエルとロシアの関係が急速に冷え込んでいるとの観測もある。

 イランの核開発疑惑に対し、欧米が厳しい制裁をかけるため、必然的にイランとロシアは急接近。その上でロシアはウクライナ戦争で必要なドローンをイランから大量に調達し、ロシア領内にイラン製ドローンの組み立て工場まで操業するなど、軍事的緊密度を増している。

 その見返りとしてイラン側は、高性能戦闘機やミサイル技術、さらには核開発技術の提供をプーチン氏に打診していると見られ、すでにミサイル技術の一部を提供しているのではないかとも言われる。

 イスラエルにとってロシアとイランの軍事的な蜜月ぶりは看過できない事態で、ロシアを強烈にけん制するため、ウクライナの核兵器開発を極秘裏に協力するというシナリオは、あながち絵空事とは言えないだろう。

 事実イスラエルは戦争勃発以降、ウクライナが懇願しているにもかかわらず、兵器供与を拒否してきたが、2023年2月に妨害電波で敵ドローンを無力化する装置のウクライナへの輸出を許可。大きな方針転換を見せている。

 イスラエルの核兵器開発協力策として、1つは原水爆の小型化が考えられる。同国は国産のジェリコ弾道ミサイル(射程1300kmの「2型」と同4000km以上の「3型」)に積める核弾頭と、F-16 戦闘機が搭載可能な大型爆弾を持つ。

 もう1つは核実験データと核実験の提供で、イスラエルが蓄積する実験データを参考に、同国領内のネゲブ砂漠にあると言われる核実験場を使い、実際の核爆発寸前で止める「臨界前核実験」を行うことが考えられる。

イスラエル軍の核戦力の一翼を担うF-16戦闘機。核爆弾の搭載が可能イスラエル軍の核戦力の一翼を担うF-16戦闘機。核爆弾の搭載が可能(写真:AP/アフロ)