核兵器は「保有した者勝ち」というNPTの矛盾を突く

 イスラエルの協力でウクライナが核兵器を所有したとなれば、欧米、とりわけアメリカは一時的に激怒するだろう。

 だが冷静に考えれば、核兵器の保有は国連安全保障理事会の常任理事国5カ国(米ロ中英仏)だけに限るという“不平等条約”のNPT(核拡散防止条約)は、すでに破綻しているとの指摘も多い。イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮という例外を事実上認めており、いわば「保有した者勝ち」の説得力に欠ける世界だからだ。

2022年8月に開かれた国連NPT再検討会議、ロシアの反対で最終合意採択できず2022年8月に開かれた国連NPT再検討会議、ロシアの反対で最終合意採択できず(写真:REX/アフロ)

 実際、ソ連邦崩壊後、旧ソ連が保有する膨大な核兵器は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4カ国が“相続”した。

 核拡散を恐れた米英ロは、ロシア以外の3カ国が有する原水爆を全てロシアに移譲。その代わりに3カ国の安全保障は米英ロが責任を持つという「ブダペスト覚書」を1994年に取り交わした。

 だが、皮肉にも覚書を交わして安全保障の義務を果たすべきはずのロシア自らが、非核化されたウクライナに侵略戦争を仕掛けているのが実情だ。

 ゼレンスキー氏がことあるごとに「あの時核兵器を手放さなければロシアは侵略できなかった」と嘆くのはある意味で当然だろう。仮に核兵器をそのまま保有し続けていれば、プーチン氏も侵略戦争を躊躇したはずで、これに反論できる者はいないはずだ。

人海戦術で迫るロシア侵略軍に徹底抗戦で臨むウクライナ軍人海戦術で迫るロシア侵略軍に徹底抗戦で臨むウクライナ軍(写真:ウクライナ国防省ウェブサイトより)

 イスラエルと同様、同盟国であるウクライナはある程度コントロールが利く国である。このため、アメリカはむしろ黙認・追認した方が得策だと考える可能性が高い。

 いよいよ「核兵器」を公然と訴え始めたゼレンスキー氏。一説には「核兵器保有」に加え「NATO加盟」もアメリカの承認を得られないのは百も承知で、とりあえず前線が欲している「欧米製長射程ミサイルによるロシア本土攻撃」を認めさせるための取引材料にしているのではないかとも言われる。

 果たして「勝利計画」を発表したゼレンスキー氏の真意はどこにあるのか──。いずれにせよ11月5日の米大統領選の結果次第で、状況が大きく変わることだけは確かだろう。

>>【表】5項目からなるウクライナ「勝利計画」の概要とは?

【深川孝行(ふかがわ・たかゆき)】
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。