普段の早貴被告は他人を気遣うような態度をほとんど見せなかったという。「社長の妻」の座は、野崎氏の会社に長年勤務している従業員よりもはるかに上だと思っていたようだった。周りと上手く付き合っていこうと思うのなら、自分はへりくだって年配の従業員を立ててもよさそうだが、彼女にはそんな世知もなかった。

 実はこの日、アプリコの経理担当のベテラン従業員は、用事が出来たとしてお別れの会を欠席した。だが真相は、早貴被告と同席するのを嫌ったからではないかと吉田氏は感じていたという。月々100万円のお手当を振り込む担当で、「なんで? もったいない」と陰で痛烈に批判していたからだ。

 また、前日に野崎氏宅を去っていった大下さんに対しても、早貴被告は気遣いを見せることもなかった。身の回りの世話をしてくれている、自分の母親より年嵩の女性をねぎらうこともなく、スーパーで買ってきたスイーツも大下さんの目の前で一人で食べるような有様だった。

 A子さんの一件についての話し合いは続いていた。マコやんが言った。

「自分が保証人になった借金が2億円あるって弁明していたけれど、彼女は自己破産をしていたとも言っていたんや。自己破産すれば保証人にはなれないから、それもウソやろうなあ」

 出まかせのウソで野崎氏から大金をせしめようとしているのではないかとの指摘だが、早貴被告はなおもA子さんに同情を寄せたという。

「でも可哀想……」

 田辺市で自分の周囲にいる女性たちには気遣いの欠片も見せない早貴被告は、なぜかA子さんには強く肩入れした。

 A子さんはこの日の夕方に電車で東京に向かっていた。その後は一度も田辺に姿を現さなかったという。

検察はなぜA子さんを証人に呼んだか

 では第11回目の公判に、なぜA子さんが呼ばれたのか。多くの記者を含め、傍聴した人々は検察側の意図がいまひとつ理解ができていないようだった。

 実はこの日の公判では、野崎氏と親しく付き合っていたジャーナリストの吉田氏も知らなかった「新しい事実」が明かされたという。

 それは、早貴被告がA子さんにお金を援助をしていたという事実だ。かんぽの宿でのお別れ会の席で「A子さんにお金を貸してあげらたよかったのに」と何度も主張していた早貴被告は、実はその時点で既に、コンビニのATMで限度額の50万円を引出してA子さんに貸していたのだという。

 そして、後日そのことを知った野崎氏は、「貸したカネ、A子から返済させなかったらお前とは離婚だ」と早貴被告に告げたというのだ。かつて貸金業を営んでいた野崎氏は、借りたカネを返す人間と返さない人間を鋭敏に察知していたのだろうか。

 野崎氏に強く叱責された早貴被告は、A子さんに「離婚は避けたいから」と言って返済を求めてきた――と第11回の公判でA子さん自身が明らかにしたのだ。

 つまり検察はA子さんの証言により、早貴被告は野崎氏との婚姻関係の解消は絶対に回避しようとしていたと印象付けたかったようなのだ。

 その検察の狙いが奏功するかどうかは分からないが、不可思議なのは、早貴被告がなぜこのA子さんにそれほど強い同情を寄せたのか、である。10代の終わりには地元・札幌での“パパ活”で元銀行員から約3000万円を貢がせていたという彼女が、真偽も怪しい中年女性の泣き落としに、なぜこんなにも強く気持ちを揺さぶられたのか。

 今後の公判の中で、早貴被告の知られざる一面も明らかになるのだろうか。