突然の借金申し込み

 この日の夕方には、アプリコの従業員らを集めてイブの「お別れ会」を市内のかんぽの宿で開くことになっていた。いわゆる「精進あげ」である。本来は葬式の直後にするところだが、野崎氏の要望で日程を延ばしていた。

 吉田氏も声を掛けられていたが、それまでの時間は、市内の定宿のホテルで原稿執筆にとりかかっていた。そこにマコやんから電話がかかってきたという。

「お疲れさまです。どうしました?」

「どうもこうもないんやで~。あのドラ子な、お手伝いをしに来たんじゃないって言いだしたんや」

「はあ?」

「社長に借金を申し込もうと思って来たんだって」

「借金? そんなこと一切、口にしていなかったじゃないですか。いったいいくらなんですか?」

「それが笑ってしまうで~、2億円やって」

「え~、2億円!」

 吉田氏は思わず大きな声を上げてしまったという。

「担保は何ですか?」

「それがな、なしで貸してくれって。それを聞いた社長が怒りだしてな」

「そりゃあオレでも怒りますって。ムチャクチャじゃないですか」

「そやろ? 貸してくれなかったら自殺しますって泣き落としにかかって、いま大変なんや。ドラ子はいまアプリコにいるんやけど、掃除も中途半端なのに、今日のお手伝い分の日当2万円をくれとも言いだして……」

「2万円? (お手伝いの)大下さんよりも多いじゃないですか。神経も図太いですね」