アプリコ番頭のマコやんが、「記憶にないってことは社長の好みではないということですよ。いいんですか?」と釘を刺した。隙あらばキレイな女性とすぐに懇(ねんご)ろになろうという野崎氏の下心を見透かしていたのだろう。

 吉田氏は、野崎氏に頼まれ、その女性に連絡を取ってみた。

 応対したのは、東京・練馬区で暮らしているという女性だった。仮にA子さんとしよう。吉田氏によれば、現在は何をしているのか要領を得ない説明だったが、田辺市でお手伝いをするのに支障はないとのことだった。受け答えは非常にハキハキとしていて、機転は利きそうだった。「明日にでも行ける」ということだったので、翌朝の飛行機で和歌山に来てもらうことにしたという。

 野崎氏は、「これで大下さんが帰ってこなくても、もう大丈夫や」とご機嫌だったという。ところがそうはならなかったのである。

“ドラ子さん”登場

 イブの葬儀から2日後の5月10日の朝、野崎氏とマコやん、吉田氏の3人は、南紀白浜空港の1階フロアで彼女の到着を待っていた。

「野崎社長、お久しぶりです。わざわざのお迎えありがとうございます」

 3人の目の前に現れたのは、想像以上にふくよかな中年女性だった。その瞬間、野崎氏の顔に失望の色がありありと浮かんだのを吉田氏は察知したという。

 田辺の自宅に戻る前、一行は野崎氏がひいきにしている喫茶店でモーニングを食べることにした。

 そこで野崎氏はA子さんに言った。

「仕事の内容はこの○○さん(“マコやん”のこと)から聞いて下さい」

 そっけなく、それだけ伝えると、後は口を閉じてしまったという。

 A子さんはそれを気にするふうもなく、身の上話を聞かせてきた。

「私、バツイチで20歳を越える息子がいるシングルマザーなんです。社長さんのところに来られてうれしいです」

 一同は呆気にとられたという。マコやんはA子さんの体形が、人気漫画に出てくるネコ型ロボットに似ているとして、彼女のことを陰で「ドラ子さん」と呼ぶようになった。このA子さんこそ、10月10日の第11回公判で証人として出廷した女性なのである。