早貴被告が見せた「同情」

 夕方になって、イブのお別れ会に参加する面々が会場に集まってきた。

 20畳ほどの宴会場の中央にテーブルが置かれ、両側に椅子が数脚ずつ配置してある。野崎氏と早貴被告が一番奥に並んで座り、吉田氏とマコやんがその向かいに座った。従業員4人もテーブルについた。

 そこで吉田氏が野崎氏に聞いた。

「例のお手伝いさん、実はお金を借りに来たんですって?」

 野崎氏は渋い顔をして答えた。

「そや。2億円を貸してくれって言いだしたから呆れて怒ったよ。担保もないのに」

「信じられませんね」

 すると早貴被告が口を挟んだ。

「貸してあげればよかったのに」

 いつもはタブレットでゲームばかりしているのに、こうした会話に彼女が入り込むのは珍しいことだったという。

 早貴被告はさらにこう言った。

「借りることができなければ自殺するって言っているのよ。『1億円なんか紙切れ』って社長はいつも豪語しているんだから、貸してあげればよかったのに」

 吉田氏がたしなめるように言った。

「キミは自分の金じゃないからそう言えるんだ。担保のない『貸して』は『ちょうだい』と同じ意味だよ」

 野崎氏は吉田氏の言葉にうなずいた。

「でも、自殺するって言っているんだから……」

 早貴被告は不服そうな表情を変えなかった。

 すると野崎氏は、

「おお、自殺でも何でもしたらええ」

 と、言い放った。

 吉田氏は、早貴被告が他人にここまで肩入れするところを見るのは初めてだったという。