問答の結果、「早めに開けて効果があるのであれば、そういう検討を進めていくことになるかと思う」との見解が引き出せたので、それは公式見解かと聞くと、「個人的な見解だ」と後退。さらなる問答の末、折り返しの電話で、「(ゲートを早めに開けてみることの)検討を今年度中に行う」ことが、豊橋河川事務所の「公式見解」になった。行政の「検討」は、何もやらない結果までの時間稼ぎとなることもあるが……。

「1円もかからずに災害が防げる」

 その後、小野田さんからは、「先月8月26日から降り続いた雨で、ゲートを開ける基準に到達したので、27日にゲートが開いていたところに、2時間で141ミリの豪雨が来ましたが、霞堤に浸水はなかった。しかし、8月31日は雨が止んで、ゲートを閉めたところ、2時間で66ミリしか降らなかったのに祖父川の簡易水位計で60センチ浸水しました。ゲートが開いていれば溢れないんです!」と確信に満ちた声で連絡があった。

 そして、「放水路のことを指摘してからもう2、3年が経ちます。設楽ダムの完成予定は延びましたが、豊川放水路のゲートを早めに開けるには1円もかからず、すぐできる。樋門の操作調整などがあるから今日の明日とは言わない。でも、ボタン1つで災害が防げるんだからやるべきだ」と強調する。

 この間、協議会として行った住民説明会で、小野田さんは「放水路を早く開けたら水位が下がる。操作規則はどうなっていますか」と尋ねたことがある。ところが、「その後に出た議事概要では『放水路の操作規則について問い合わせがありました』に変わっていました」と不誠実な対応に衝撃を受けたという。「左岸の霞堤は閉めない。放水路は閉めて災害を引き起す。これ、設楽ダムを作りたいためにやっているんじゃないかと言いたくなる」(小野田さん)。

 開かずの豊川放水路、完成しない設楽ダム。その間で、豊川左岸の霞堤では、今日もまだ、江戸時代の時が刻まれているのである。