霞堤では発令されないレベル5「緊急安全確保」

 ところが、霞堤で溢れても、キキクルはレベル5「緊急安全確保」を発しない、と小野田さんは不公平感を募らせる。

 何故、キキクルは、霞堤の氾濫情報を出さないのか。気象庁に聞いてみた。すると、一般論として「霞堤は低い水位で溢れるので、霞堤で溢れた段階でレベル5『緊急安全確保』を出すと、大勢の人にはそうではないからです」と説明する。

「そもそも、キキクルの対象は、国土交通省が『国土数値情報』に登録している河川です。2020年の水防法改正で、1万5000河川の浸水想定区域の登録が追加され、キキクルの対象も順次、追加中です」と気象庁は言う。霞堤はそこからは漏れているという意味だ。

「それ以外でも、自治体から連絡をいただいて、調整の後、追加が必要なら載せることができる」(気象庁)というのだが、小野田さんは、「区域を区切って出せばなんの問題もない」と指摘する。

 確かに、大勢のために霞堤を切り捨てたのでは、2、3年ごとに浸水する「霞堤地区」の苦境も、存在すらも、人々に認知されないままだ。

 問題は豊川市が作る「避難情報の判断・伝達マニュアル」でも見られる。

「金沢の霞堤では、最寄りの石田の水位観測所の水位が6.2mになったら浸水開始だと書かれているんですけど、実際には4.5mで溢れる。そう言っても直らない」と小野田さん。

 そこで、豊川市に聞くと、「4.5mの話は話題として協議会では出ているところ。国、県、市と連携しながらやっている。住民も参加しているので、国と調整しながら決めていく形。勝手にこうしますとは言えない」という。

 八方塞がりになりながら奮闘してきた小野田さんは、「参加させても反映しないなら、いかにも『住民の意見を聞いています』という言い方をするのは止めて欲しい」と述べる。