「Future You」系サービスに求められる「倫理」

 最初はユーザーがFuture Youを「予言」と捉えてしまう恐れがある点だ。

 前述の通り、これはあくまで限られたデータに基づいた「仮説」でしかない。この点をユーザーが正しく認識していないと、彼らがFuture Youに疑念を抱いたり、逆に過度に依存したりする結果になってしまうかもしれない。

 次に、プライバシーのような倫理的問題に関する懸念だ。

 Future Youに限らず、プライベートに踏み込むような個人情報を分析するAIは、常にプライバシーの侵害、不適切な表現、差別や偏見の助長といった問題を抱えている。心理カウンセラーではないAIが、「老いへの恐怖」という深い心理的問題にどこまで立ち入って良いのか、広範な議論が求められている。

 また否定的な影響についても懸念されている。

 このシステムは(「未来の自分との連続性」を高めるために)前向きな回答をするよう設計されているが、予期せぬまたは望まない未来のシナリオが生成され、それに基づいた回答がなされることで、一部のユーザーに悪影響を与える可能性がある。

 本当にFuture Youを実用的なサービスとして実現することを目指すなら、それが与える悪影響へのケアも含めて設計されるべきだろう。

 そして、こうした懸念点に対する対応が、すべての「Future You」系サービスで実施されるとは限らない。

 MITのFuture Youサイトに対する人気が高まれば、すぐに類似サービスやアプリが雨後の筍のように現れるだろう。そうした類似サービスの中で、「未来の自分との連続性」の概念を正しく理解せずに開発されたものが、逆にユーザーを不適切な行動へと導いてしまう恐れがある。

 ただ、そうした懸念点はあれど、未来の自分を想像してみるというのが好ましい行動であることに違いはない。Future Youをひとつのきっかけとして、将来に備える準備を始めてみてはどうだろうか。

【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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