Future Youは「仮想タイムマシン」

 これは一種の「仮想タイムマシン」であり、未来の世界に行って、60歳になった自分と会話できるというサービスである。

 Future YouのAIは、ユーザーから入力されたデータを使用して、そのユーザーが将来体験する(可能性のある)ライフイベントを生成。それに基づいて、未来のユーザーの「バックストーリー」を作成している。

 そのためユーザーは、これからどんな出来事が起きる可能性があるのか、それに対して自分はどう反応する可能性があるかを質問することもできる。

 ただし、当然ながらFuture Youは未来を予言をしてくれるわけではない。あくまでも「未来の自分はこんな体験をし、こんな反応をする可能性がある」というひとつの仮説を示してくれるだけだ。

 そうした仮説や可能性であったとしても、未来の自分について考えることは、ポジティブな効果をもたらすと研究者らは主張している。いったいどういうことなのだろうか。

 オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』では、主人公グレイの代わりに肖像画の方が歳を取る。そして彼はその肖像画から目を背け、目に見えない場所に隠してしまう。つまり若い自分と年老いた自分が、まったく別の存在になってしまうのだ。

 もちろん、実際にはそんなことはあり得ないわけだが、この「年老いた自分」を今の自分から切り離すというのは、心理学的にも最悪の行為のようだ。

 Future Youの研究者らは、彼らが依拠した既存の研究のひとつに、「未来の自分との連続性(Future Self-Continuity)」という概念を扱ったものを挙げている。その参照論文によれば、この概念はその名の通り「今の自分と将来の自分がどれだけつながっているかを感じる度合い」を意味している。