最悪の事態はイランによるホルムズ海峡封鎖

 イランは10月1日、イスラエルに対して約180発の弾道ミサイルによる大規模攻撃を実施した。イランは「レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラ指導者のナスララ師やパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスのハニヤ最高指導者が殺害されたことへの報復だ」と説明している。親イラン武装組織の指導者が相次ぎ殺害されたイランは、求心力を保つために報復に出ざるを得なかった印象が強い。

 弾道ミサイルの発射数は4月の攻撃の約2倍だったものの、今回の攻撃も前回と同様、抑制的だった。空軍基地の一部に着弾したものの、甚大な人的・物的な被害は出ていないようだ。

 イランが応酬の激化を望まないのに対し、イスラエルの報復は過激なものになるとの観測が出ている。米ニュースサイト「アクシオス」は10月2日、「(数日後に予定されているイスラエルの反撃について)石油施設などを標的にする可能性がある」と報じた。 

 OPECによれば、イランの8月の原油生産量は日量340万バレル。欧米諸国の制裁を回避する形で中国やインドなどにイラン産原油が大量に輸出されていると言われている。

 ハマスに加えてヒズボラとの全面戦争に直面しつつあるイスラエルにとって、イラン経済を支える石油関連施設をピンポイントで狙うことは極めて効果的な作戦だ。

 イランの油田地帯は南西部に集中しており、地理的にも攻撃しやすい。イラン最大の原油積み出し港があるカーグ島は格好の標的になる。

 大統領選を控えたバイデン政権にとって原油価格の高騰を招く事態は避けたいところだが、イスラエルは米国の意向を無視した行動に出る傾向が強まっている。

 石油関連施設を攻撃されれば、イランが「死なば諸共」とばかり、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡(日量2000万バレル超の原油が通過)を封鎖しようとするかもしれない。原油価格は100ドル超えになるのは必至だろう。

 ガザ戦争の開始から1年が経とうとしているが、中東産原油の供給途絶のリスクがかつてなく高まっている。原油輸入の中東依存度が世界で最も高い日本にとって由々しき事態にならないことを祈るばかりだ。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。