日銀は過去2年の円安で為替従属の金融政策に

──日銀が追加の利上げを視野に入れると、為替はさらに円高方向に触れていくのでしょうか。

藤代氏:為替については、説明順序が変わります。これまでの常識的に考えると「日銀の利上げが円高圧力を生じさせる」、というものでした。ただ過去2年の円安を経て、日銀の政策は完全に為替に従属する形になっています。

 象徴的だったのは、今回の政策決定会合後の声明文の最後に「このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と記載されたことです。7月の利上げも、輸入物価の上振れリスクが高まったということで利上げに踏み切っています。

 黒田元総裁時代や植田総裁の初期の頃は、為替の変動は当たり前で物価を前年比で見る時は為替などを除いてコアで見ます、というスタンスでした。

 このように、最近は為替が先に動いて、日銀の金融政策が後から追う形になっています。そのため、円高になると日銀が利上げをする可能性は低くなり、今後の為替に関しては現時点では1ドル=140〜150のレンジがしばらく続くのではないかと見ています。

──米国では9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.5%の利下げを決めました。常識的な0.25%の倍の利下げとなりましたが、これはサプライズだったのでしょうか。

藤代氏:そこまでサプライズではありませんでした。実際、労働市場の指標では悪化したデータも広く見られていました。政策が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」を避けるため、パウエル議長は大幅な利下げを敢行しました。

 FRBをすでに離れているダドリー前ニューヨーク連銀総裁などは手遅れになる前に早く利下げしたらいい、ということも言っていました。FOMCのウォーラー理事やウィリアムズニューヨーク連銀総裁など常識的な0.25%ベースの下げが良いと言う人はいましたが、いざ景気後退への対処が遅れて金融政策失敗の責任を取らされるのはパウエル議長で、今回は思い切りの良さが重視されたのだと思います。

 FRBが推計する中立金利は約3%で、利下げ前のFF金利(誘導目標レンジ上限5.5%)からは2.5%の距離があります。これだけ中立金利から距離が離れているので、0.5%の利下げもあくまで調整に過ぎません。色々な意味で0.5%の利下げは妥当だったと思います。

──今後の米国の政策金利の動向はどう見ていますか。