- 9月30日、日経平均株価は石破茂氏が自民党新総裁に就任したことを受けて、大幅に下落した。
- 石破氏は総裁選後、拙速な金利引き上げに疑問を呈すような発言をしたほか、財政出動にも一定の理解を示したかのように見える。金融所得課税の強化や法人税増にも言及するなど、経済政策には不透明感が漂う。
- 経済アナリストの森永康平氏は「自民党は国民を見ていない政党だと総裁選ではっきりした」と一刀両断。2025年夏頃に増税の議論が熱を帯びると予測する。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
国民の経済的苦境を全く見ていない自民党
──石破氏が自民党総裁に選出されました。石破氏の財政・金融政策をどのようにみていますか。
森永康平氏(以下、敬称略):彼のマクロ経済観は、総裁選の告示前と告示後で変わっています。告示後や総裁選後のインタビューでは、政策金利の早期の引き上げについて慎重な見方を今のところ示していますし、物価高対策として財政出動の必要性も認めています。
ただ、告示前は「アベノミクスの異次元の金融緩和で、国家の財政と日銀の財務が悪化した」と言っていましたし、企業が負担すべき金利が事実上免除されたことで、いわゆる「ゾンビ企業」が市場から退場しなかった、というような趣旨の発言もしていました。
私は、ネットで広がっている「石破さんが首相になったから、すぐに金利の引き上げ・増税がくる」という見方が正しいとは思いません。ただ、告示前の発言が「本音」だとすると、石破氏は財政健全化路線を肯定する政治家であると言えると思います。
それよりも私は、今回の総裁選を見て「やっぱり自民党は自分たちの論理でしか動かない政党なんだな」という思いを強くしました。
今回の候補者の中ではほぼ唯一と言っていい「積極財政論者」であった高市早苗氏は1回目の投票で1位だったのにもかかわらず、決選投票で負けてしまった。
世論では「『今、利上げするのは“アホ”と喝破した高市さん』であれば、庶民の生活苦を理解してくれる」という声もあったにもかかわらず、決選投票では自民党員の中で「高市さんだけは嫌だ」という論理が働いたのでしょう。
この事実だけを見ていても、少なくとも自民党は国民を経済的に豊かにすることを第一に考えてはいないと言えると思います。ただ一方で、私は高市氏が勝っていたとしても、公約で謳っていたような積極財政を実現する政策は打てなかったと思っています。
なぜなら、真逆の考えを持つ人の協力も必要になってくるからです。言い換えれば、石破氏も党内で真逆の考えを持つ人の協力が必要なので、緊縮財政路線にかじを切りたくても、一気に利上げ・増税路線にシフトできるかというと、そうとも言い切れないでしょう。
──石破氏は「金融所得課税の強化」や「法人税増」の必要性にも触れていました。