――婦人科に行くのは怖い、嫌な経験をしたことがあるから行きたくないという女性はけっこういます。また、月経による不調を感じず、妊娠出産も経験しなければ、婦人科と縁が無いまま年齢を重ねることもあるので、月経が始まったら婦人科へというのはいいなと思います。

西 婦人科は敷居が高いとか、自分の不調が該当するかわからないような場合は、僕らのようにまず家庭医に相談してもいいと思います。服薬や検査の必要性があるなら婦人科の受診を勧められるかもしれませんし、日常生活に影響がどれくらいあるのかなどを考慮して様子を見た方がいいとなるかもしれません。家庭医は「体調が極端に悪いわけではないのだけれど相談したい」「メンタルも含めて不調に波がある」といった時にも頼れる存在ですから、婦人科を受診する前のワンクッションにしてもいいですし、受診後に不安があれば、また戻ってきて相談してもいいでしょう。

――50歳頃には更年期の不調も起こるようになりますし、子宮がんや卵巣がんなど婦人科がんのリスクが高まるので、婦人科に気軽にアクセスできるようにしたいものです。

西 そうですね。私は自分の専門外ということもありますけれど、娘をはじめ年代を問わず多くの女性が苦痛を抱えたまま、医療にうまくアクセスできないことが多いのだと初めて知りました。私の経験を発信することで、日常生活に支障を来している人や保護者の方々は、我慢しないでいいと知っていただきたいと思いましたし、治療に結びつけばと願っています。

今そこにある体調不良を諦めない

――子宮頸がん等の原因の一つであるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐHPVワクチンについて、2013年に副反応による健康被害をメディアが大きく報道したことからワクチンに恐怖心を持つ人も少なくないですし、新型コロナウイルスに感染することは人類が初めて経験することですから、さまざまな体調不良がそれらの影響ではないかと思いがちですね。

西 私も惑わされたわけですが、専門的な知識がなければ尚更「ワクチンをうったから子どもが苦しんでいるに違いない」と考えてもおかしくないだろうと思いますし、「後遺症だと思う」と病院にかかっても「そんなはずはありません」と否定されたという声も聞きます。しかし、現に体調不良はあるわけです。後遺症や副反応に思えるものはどうすることもできないと諦めてしまって、適切な医療に結びついていないケースは少なくないのではないでしょうか。私の娘のように治療につながれば、症状を和らげたり改善できたケースもあることに気づいてもらえたらと思います。

 一方で、ワクチンや感染の後遺症である可能性も、まったく否定はできません。ワクチン接種後の発熱や倦怠感など短期的な副反応は、経験された方も多いでしょう。米国産婦人科学会は約4000人を対象としたEdelmanらの研究(2022)で、ワクチン接種後の一時的な月経周期異常があったことを報告しています。他にも約4万人のワクチン接種者への調査で、約40%の女性が「月経量が増加した」と回答したという報告もあります*1。感染後に月経量や周期に変化があったという報告*2もあるので、可能性はゼロではないのです。

 しかし、たとえそれが副反応や後遺症であったとしても、医療は症状を緩和したり治療を探って改善を試みたりすることができます。別の疾患である可能性もありますから、ご紹介したように家庭医を頼るなど、適切な治療につながってほしいと思います。

*1 SCIENCE ADVANCES誌ISSUE28 VOLUME 8(2022年7月15日)掲載“Investigating trends in those who experience menstrual bleeding changes after SARS-CoV-2 vaccination”(ワクチン接種後に月経血の変化を感じた人の傾向の調査)

*2 Reproductive BioMedicine Online VOLUME42, ISSUE1(2021年1月)掲載
“Analysis of sex hormones and menstruation in COVID-19 women of child-bearing age”(COVID-19感染した出産適齢期女性における性ホルモンと月経の解析)

<西 智弘(にし・ともひろ)>
川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科医師、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。家庭医療を中心に初期研修後、緩和ケア・腫瘍内科の専門研修を受け、2012年から現職。「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」を運営する一般社団法人「プラスケア」を起業し、院外にも活動の場を広げている。著書に『だから、もう眠らせてほしい 安楽死と緩和ケアを巡る、私たちの物語』(晶文社)、『わたしたちの暮らしにある人生会議』(金芳堂)など。