「死の谷」越えには、トヨタとの協業も不可欠に

 第2世代燃料電池システムと、CR-V e:FCEVの最終組立はすべて、アメリカ国内で行う。生産能力は年間約600台。このうち、日本向けが年間70台で、残りはアメリカ向けだ。

 今年2月29日の受注開始以来、取材時点までの受注数は国内で58台(個人が約78%、法人が約22%)。

 鳴り物入りで発売されたCR-V e:FCEVではあるが、この数字を見る限り「死の谷」を越えたとは言い難い。

 死の谷とは、商品が世に出る際、社会受容性が整わず、商品として一般化できない様子を表現した言葉であり、社会学やマーケティング業界などで使われることがある。

「CR-V e:FCEV」のインテリア(写真:筆者撮影)

 ホンダとしては、乗用FCEVが単独で「死の谷越え」をすることは難しいと捉えているからこそ、B2Bを主体とする需要の拡大を狙うといえる。

 こうした水素戦略は、トヨタ自動車の燃料電池関連事業と概ね同じような流れにあると感じる。

 そのため、ホンダとしては水素社会の実現に向けて、水素インフラの拡充や活用といったトヨタと共同で手掛けることが可能な「協調領域」と、ホンダ独自の「水素活用パッケージ」の商品化を今後、どのようにバランスさせ、かつ収益性を上げていけるかが大きな課題となるだろう。

 最後に、CR-V e:FCEVの価格だが、809万4000円。国のCEV補助金が255万円となる。 契約はリース販売のみだが、リースでもCEV補助金は活用できる。

 B2B主体で需要拡大を狙うホンダの燃料電池システム事業の中で、B2Cの需要はどのように伸びていくのか。

 今後もホンダの水素事業の動向を追っていきたい。

桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
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