8200部隊は世界規模での情報収集、軍事作戦、サイバーセキュリティーに大きな影響を与えてきた。敵のネットワークへの侵入、インフラの混乱、情報収集など、攻撃目的で設計されたサイバー兵器の開発に深く関与している。

 米情報機関と協力してイランの核開発計画を妨害することを目的に高度なマルウェア「スタックスネット」を開発したとされる。また、産業スパイ用に設計されたデュクは将来のサイバー攻撃を容易にするための情報を収集。フレームは感染したデバイスからデータを収集している。

シギント能力を向上させる民間企業

 イスラエル企業NSOグループが開発したペガサス・スパイウェアは8200部隊のスマホ・ハッキング能力を象徴する。ワッツアップやシグナルなど暗号化されたメッセージも傍受。位置情報をリアルタイムで追跡し、カメラやマイクにアクセスして標的を秘密裏に監視できる。

 膨大なデータの迅速な処理と分析の自動化のためシギント(電子スパイ)ツールに人工知能(AI)を統合。8200部隊のOBはイスラエルのサイバーセキュリティー企業やテクノロジー企業で働くか、起業することが多く、イスラエルのシギント・サイバー能力を飛躍的に向上させている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。