2018年10月2日、在トルコ・サウジアラビア総領事館でサウジアラビアの暗殺部隊によって殺害されたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏。カショギ氏周辺の人物のスマホも、スパイウェア「ペガサス」のターゲットになっていたという(写真:AP/アフロ)

(山田敏弘・国際ジャーナリスト)

 イスラエルの悪名高いスパイウェア(監視システム)が大きなニュースになっている。

 7月19日付けのAPF通信(日本語版)によれば、「イスラエルの民間企業NSOグループが開発した携帯電話向けマルウェア(悪意のあるソフトウェア)が、世界中の人権活動家やジャーナリスト、企業経営陣、政治家らの監視に使われていたことが18日、流出した5万件超の携帯電話番号リストをめぐる国際的な調査報道で明らかになった」という。

5万台以上のスマホが監視下に

 NSOグループが開発したのは「ペガサス」と名付けられたスパイウェア。同グループはこれを世界の国や法執行機関などに販売してきた。ペガサスは、その“性能”の高さから世界のサイバーセキュリティやインテリジェンス専門家の間では非常に有名なソフトウェアである。

 報道によれば、その実態の一部を明らかにした今回の調査報道は、アムネスティ・インターナショナルの助言を受け、米ワシントン・ポスト紙や英ガーディアン紙、仏ルモンド紙などが協力して実施したもの。そこでペガサスを導入した各国によって、少なくとも5万台以上のスマートフォンが監視されていたことが判明した。

 これを報じたワシントン・ポスト紙(https://www.washingtonpost.com/investigations/interactive/2021/nso-spyware-pegasus-cellphones/)によると、今回の調査で、NSOが世界各国に販売したペガサスで、世界50カ国以上で1000人以上の人たちが監視されていたことを特定したという。

「幾人かのアラブ系王族や企業エグゼクティブ65人以上、人権活動家85人、189人のジャーナリスト、閣僚や国家元首、首相たち、外交官や軍や公安部門の幹部を含む政治と政府関係者600人以上が含まれていた」

 筆者は、サイバー攻撃やスパイ工作をテーマに取材する過程で、このスパイウェアについても何年も前から動向を注視してきた。本記事では、日本ではあまり知られていないスパイウェアの実態をまとめてみたいと思う。