陰謀論ボットと反論ボットが入り乱れる時代

 まずは当たり前の話だが、「陰謀論者が自主的に反論ボットと会話してくれる可能性は低い」という、到達可能範囲の問題だ。

 今回は実験なので会話してくれたが、現実の環境であれば、いくらAIが丁寧な言葉づかいでコミュニケーションしてくれたとしても、自らの信念に反論しようとする存在と会話を続けようとは思わないだろう。

 また、悪用の可能性も指摘されている。

 陰謀論という信念に反論できるということは、別の信念への反論も可能ということであり、それは「正しい」信念である必要はない。既に登場しているプロパガンダAIと同様、反論ボットも誤情報を広めたり、人々を有害なイデオロギーを信じるよう操作したりするために使用される恐れがある。

 皮肉なことに、陰謀論に反論するためのAIチャットボットの存在自体が、新しい陰謀論の対象になる可能性もある。「政府が必死になって私たちを否定しようとすること自体が、私たちの信念が真実であるという証に違いない」というわけだ。

 こうした理由から、反論ボットの技術やそれが依拠する理論を広い範囲で活用する場合には、十分な配慮が求められることを研究者らは指摘している。

 反論ボットが安全な形で普及するためには、もう少し時間と研究が必要なようだ。とはいえ、慎重に設計されたAIチャットボットとの会話により、人々が「分析的思考」を身に付けられる可能性が示されたのは喜ぶべき点だと言えるだろう。

 いずれは義務教育にこうしたボットが組み込まれるなどして、陰謀論に対する免疫をつける取り組みが進むかもしれない。

陰謀論ボットと反論ボットが入り乱れる時代に?陰謀論ボットと反論ボットが入り乱れる時代に?

【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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