反論ボットの思わぬ副次効果

 まずは陰謀論の種類だ。

 前述の通り、反論ボットには全体として「陰謀論への信念を減らす効果」が確認され、その効果がある程度持続することもわかった。その効果や持続性は、被験者が信じていた陰謀論の種類(ジョン・F・ケネディの暗殺や宇宙人の存在、COVID-19、2020年米国大統領選挙に関連するものを含む、幅広い陰謀論が対象となった)によって、大きな差は見られなかったそうである。

 また、興味深い副次効果も確認されている。

 前述の通り、実験で行われた会話は、単一の陰謀論に焦点を当てて行われた。COVID-19に関する陰謀論であれば、それはどのような陰謀論か、被験者がなぜそれを信じているのかといった具体的な状況に合わせてAIによる反論が行われた。

 にもかかわらず、実験中の会話とは無関係な陰謀論への信念も減少させる「波及(スピルオーバー)効果」が見られたそうだ。

 たとえば、実験でCOVID-19に関する陰謀論について会話を行い、それに対する信念が減少した場合、米大統領選挙に関する陰謀論に対する信念も減少するといった具合である。

 この点について論文では、反論ボットとの対話を通じて得られる「分析的思考の促進」が関与している可能性が指摘されている。AIが個別の陰謀論に対して論理的かつ事実に基づいた反論を行うことで、被験者の全体的な批判的思考が促進され、陰謀論全般に対して懐疑的になるのではないか、というのである。

 さらに、信念の強さや陰謀論がその人の人生に与える重要性が高い場合でも、信念を減少させる効果は確認されたそうだ。ただし、この点については「最も信念が強い人々」に対しては効果がやや小さくなる傾向があったということで、当然ながら極めて強い信念を抱いている人々の説得の難しさが示されている。

トランプ大統領の銃撃事件でも誤情報や陰謀論が駆け巡った(写真:ロイター/アフロ)トランプ大統領の銃撃事件でも誤情報や陰謀論が駆け巡った(写真:ロイター/アフロ)

 ちなみに、プロのファクトチェッカーが反論ボットの主張のサンプルを確認したところ、99.2%が真実であることが判明したそうだ。反論ボットは万能ではないとはいえ、虚偽の主張をすることなく、ここまで効果を発揮することができたわけである。

 それでは、いますぐ反論ボットを実用化し、世の中にばら撒けば良いかというと、話はそう簡単ではない。研究者らは、いくつかのハードルが残されていることを指摘している。