ロボットが嘘をつくというシチュエーションはSF映画などでたびたび描かれたが、もはや何ら驚きでもない。それでは、ロボットのどのような嘘なら人間は許容できるのか。実験を通して見えた許される噓と許されない噓とは。(小林 啓倫:経営コンサルタント)
「噓をつくロボット」はSF作品では当たり前?
1968年に公開された『2001年宇宙の旅』というSF映画がある。スタンリー・キューブリック監督がSF作家アーサー・C・クラークとの共同脚本によって完成させた古典的作品であり、映画史における金字塔とも言われている。
そのため、改めて説明するまでもないかもしれないが、念のためにあらすじを紹介しておくと、タイトルの通り2001年(公開当時ははるか先の未来だった)に宇宙空間を舞台にした冒険が描かれるというもの。ある出来事をきっかけに、宇宙船ディスカバリー号が木星探査の旅に出るのだが、その途中で思わぬ事件が起きて――というストーリーだ。
未見の方には恐縮だが少しネタバレしてしまうと、ディスカバリー号を管理するAIである「HAL9000」が、人間に対して反乱を起こす場面が作品の大きな山場となっている。
反乱といっても、映画『ターミネーター』のような殺人マシーンが登場するわけではない。
HAL9000は宇宙船に内蔵されているため、明確な筐体を持たず(ディスカバリー号という宇宙船そのものがHAL9000を頭脳とするロボットと言えるかもしれない)、宇宙飛行士たちを言葉巧みに騙すことで隠れた目的を達成しようとする。いわば「嘘をつくロボット」なのである。
そうした噓つきロボットは、他にもさまざまなSF作品の中に登場している。彼らのつく嘘がストーリー上の重要な要素となることも多いため、あまり具体的な作品名は挙げないでおくが、そんな作品がいくつも思い浮かぶという方もいるのではないだろうか。
たとえば、先ほどの『ターミネーター』シリーズの2作目では、言葉としての嘘をつくどころか、外見すらもまったくの別人に偽装できる(それどころか人間以外のものにも擬態できてしまう)ロボットまで登場している。
HAL9000が描かれてから半世紀以上が経過したいま、フィクションの世界では、ロボットが嘘をつくというのは何ら驚きではない状況になっている。また現実の世界でも、急速に普及した生成AIにおいて、いわゆる「ハルシネーション」(生成AIが真実でないことをあたかも真実であるかのように回答してしまう問題)が起きることが知られつつある。
ロボットあるいはAIは、文字通り機械のように正確無比に動く存在から、嘘をついたり間違いを犯したりする存在へと認識が変化していると言えるだろう。
とはいえ、ハルシネーションは、結果として回答が間違いになっているだけで、AIが意図して嘘をつこうとしているわけではない。ただ、AI技術が進んで、意図的に嘘をつくことのできるロボットが実現されたら、人々はそれを受け入れるのだろうか。
もちろん一律の答えというものはなく、時と場合によってその答えは変わってくるだろう。それではどんな場合に、ロボットが嘘をつくことが許されるのだろうか。