「外的状態欺瞞」が許容されるのはなぜか?

 これは前述のように、ロボットが家で掃除をしながら、実は利用者の行動を隠しカメラで記録しているような状況だ。能動的に嘘をついているわけではないが、不作為の嘘と言うべきか、本来ならば伝えておくべき情報を伝えていないわけである。

 そうした消極的な行為であるにもかかわらず、人々はそれを「裏切り」と感じ、倫理的に問題があるとして強い否定的な感情を持つ傾向が見られた。

 そして意外なことに、「外的状態欺瞞」は、他の2つに比べて比較的許容されやすいという結果が得られた。特に誰かを守るための「優しい嘘」の場合、ロボットが嘘をつくことはそれほど問題視されないことが多かった。

 たとえば、認知症の高齢者に対し、すでに亡くなった配偶者について「まだ生きている」「いずれ帰って来る」と嘘をつくことは、悪意のある行為とは言い難い。

 そうした嘘であれば、それを発したのがロボットであっても、相手を傷つけないための善意の行為と解釈され、被験者からの評価も比較的高かった。

 最後に「表面的状態欺瞞」については、評価が二分した。このタイプの欺瞞は、ロボットが実際には持っていない感情や感覚を持っているふりをする場面に見られる。

 たとえば、重いものを運ぶ作業中に「明日筋肉痛になりそう」と言って、まるで人間のように疲労感を表現するといった具合だ。

 このような行動は、人間のように共感を示してくれると感じたと評価する声がある一方で、実際には感情や痛みがないロボットがそのように振る舞うのは、だますことになるのではないかと疑問視する人も見られた。

 またこの実験では、ロボットの背後にいる開発者やプログラマーの責任についても調査された。すると「隠蔽状態欺瞞」の場合には、ロボットが単独で騙したのではなく、背後にいる開発者やプログラマーが悪意を持ってロボットを操作していると感じる人が多く見られた。

 人々は「外的状態欺瞞」や「表面的状態欺瞞」の場合、ロボット自体に責任を負わせる傾向が強かったのに対し、隠蔽状態欺瞞では「ロボットはあくまで道具であり、騙しているのはその背後にいる人間だ」と考える傾向を見せたのである。

 人はいわゆる「嘘」については、その裏側にある意図に基づいて是非を判断してくれる一方で、「裏切り」と見なされる行為には厳しい態度で臨む――。今回の研究結果からは、そんな人間の性質が見えてくる。