- 英サウスポートで起きた騒乱の背景には、SNSで流布された誤情報の存在がある。
- 人はなぜ、デマや陰謀論を容易に信じてしまうのか。
- 正しい知識を持っていても逃れられない「真実性錯誤効果」とは。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
今年8月上旬、英国の各地で「過去10年以上経験したことのない最悪の騒乱」とBBCが表現したほどの暴動事件が起きた。
BBCの報道によれば、7月29日、イングランド北西部の町サウスポートにおいて、ダンス教室に来ていた3人の女の子が刺されて亡くなるという痛ましい事件が発生した。
容疑者はアクセル・ムガンワ・ルダクバナという17歳の少年で、英ウェールズの都市カーディフに生まれ、事件当時はランカシャーのバンクス村に居住していたそうだ。
当初、17歳という年齢を理由に、彼の氏名は公表されていなかった(ウェールズ生まれの人物だということは報じられていたようだ)。
すると、SNS上で「犯人はイスラム教徒の移民だ」という根拠のないうわさが拡散。それを信じた極右主義者や反移民主義者などがサウスポートに集まり、モスクを襲撃するまでに至ったのである。
騒乱はこの町に留まらず、その後マンチェスターやロンドンなど主要都市にまで波及。英テレグラフ紙の報道によれば、この記事を執筆している時点で、暴動が起きたのは20都市を超えており、逮捕者も400人を超える事態となっている。
大きな災害や事件・事故をきっかけに、悪質な陰謀論が流布され、暴動など別の事件が引き起こされるという事態はこれまでも起きてきた。
たとえば、1923年に発生した関東大震災の際には、朝鮮人や中国人といった外国の人々が「井戸に毒を入れた」などというデマが流れた結果、実際に多数の外国人や「外国人だと誤解された日本人」が暴力をふるわれ、死傷者まで発生している。
そして、SNSを通じて大量の情報発信が瞬時に行えるようになった今、サウスポートの事件が示しているように、陰謀論の脅威はかつてないほどに大きくなっていると言える。
なぜSNSを通じた陰謀論に人々が躍らされてしまうのか。さまざまな研究を通じて、そのメカニズムが明らかになってきている。