2019年に起きた東京の池袋暴走事故から5年が経過しました。当時87歳の高齢男性が車を暴走させ、自転車や歩行者を次々とはねて計11人が死傷するという痛ましい事故でした。この事故に象徴されるように、認知機能が衰えても運転を止めない高齢者が多数存在します。免許返納はなぜ進まないのでしょうか。9月16日の敬老の日を前に、免許返納の実情と課題をやさしく解説します。
相次ぐ高齢ドライバーの暴走事故
東京・池袋の暴走事故では、乗用車を運転していた男性(過失運転致死傷罪で禁錮5年)がブレーキとアクセルを踏み間違えたことがわかっています。繁華街で事故を起こした際には車をコントロールできず、最高で時速90キロ超のスピードで母娘2人をはねて死亡させました。
男性は事故前、医師から「パーキンソン病の疑いがある」と診断され、運転をやめるように忠告されていましたが、それを無視。刑事裁判では「もう少し早くに運転を止めていればよかった」という言葉も口にしましたが、失われた命が戻るはずもありません。
この池袋暴走事故はメディアで大きく報道され、高齢者ドライバーの危険性を改めて社会に強く警告する結果となりました。しかし、その後も同様の事故は続きました。
▶2022年8月、札幌市西区=当時79歳の女性は家族から運転免許の自主返納を促されていたにもかかわらず、運転を継続。青信号で横断歩道を渡っていた自転車の女性をはねて死亡させ、その後は時速136キロまで加速。さらに男性2人にけがをさせた。ブレーキとアクセルを踏み間違えたという。
▶2022年11月、福島市=当時97歳の男性が歩道で車を暴走させ、5人を死傷させた。事故の直前、自宅での車庫入れの際に車をぶつけたため、娘から「もう運転はやめたほうがいい」と諭されたが、その後も乗り続けていた。過失運転致死傷罪で起訴された男性は公判で「本当は返納すべき年齢になっていたが、返納してしまえば、どこにも行けない」と語っていた。
▶2023年3月、大阪市生野区=当時76歳のタクシー運転手が赤信号を無視して交差点に侵入。横断歩道を渡っていた女性2人を死亡させるなど7人を死傷させた。運転手はブレーキとアクセルを間違えたという。過失運転致死傷罪に問われた運転手は2024年9月に禁錮3年の有罪判決。大阪地裁は「被告が認知症だったことを考慮しても注意義務違反はあった」とした。
▶2023年10月、北海道釧路市=77歳の男性が運転する乗用車が病院の駐車場で暴走。4歳の女児と母親をはね、女児を死亡させた。原因はアクセルとブレーキの踏み間違い。男性は運転免許の自主返納も考えていたという。
これらはほんの一例に過ぎません。警視庁交通局の資料によると、75歳以上の高齢運転者による2023年の死亡事故は前年より5件多い384件を数えました。免許保持者10万人あたりの死亡事故件数は、75歳未満の2.6件に対し、75歳以上は5.3件。75歳以上の運転手による死亡事故は、75歳未満の2倍にもなっているのです。
原因別ではブレーキとアクセルの踏み間違いやハンドル操作の誤りといった「操作不適」が、75歳以上は27.6%、75歳未満は9.9%。双方の差はなんと3倍です。