「建て替え決議はゴールではなくスタート」の真意

 マンションの建て替えにあたっては、建て替えの発意→理事会などでの情報収集→再生の検討組織の立ち上げ→修繕や改修と建て替えの検討→建て替えに向けた計画案の作成→合意形成活動→建て替えの決議……とさまざまな手続きがあり時間もかかる。

 2024年3月末までに48件のマンション建て替えを実現し、建て替えのリーディングカンパニーを自認する旭化成ホームズの調査によると、発意から決議までにかかる平均期間は6.3年となっている。

 これはあくまでも平均値であって、実際の期間ごとの分布をみると、【グラフ4】にあるように5年以下で決議できているマンションが半数を超えている。2、3年で決議に至るケースもあるが、相対的には長い期間かかるというイメージがあるため、それも建て替えを難しくしている要因のひとつかもしれない。


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 しかも、決議後も解体から着工に至るまでには、また一定の日数が必要になってくる。旭化成ホームズのデータによると、決議から解体工事着手までは平均すると2年前後となっている。【グラフ5】にあるように、2年未満で解体に着手できた事例が半数を超えてはいるものの、中にはここだけで6年以上かかったケースもあるという。


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 そのため「建て替えの決議はゴールではなくスタートである」とも言われる。再建マンションの間取りの決定、区分所有者のうち再取得する人の住戸の確定、その資金計画などさまざまな課題があり、ここも一筋縄ではいかないことが多い。

 なお、マンション建て替えの自己負担の平均は先にも触れたように1941万円だが、旭化成ホームズの事例の平均は1340万円だった。国土交通省の平均より多少負担が軽くなっているが、旭化成ホームでは、「都心立地が多く、建て替えを前提とした評価額が高いため」としている。余剰床の売却による収入が多くなるため、一人ひとりの負担は小さくて済むわけだ。

 このように、建て替えの負担は物件ごとに大きく異なってくる。自分たちの住んでいるマンションでは、余剰床がどれくらい出るのかなど、条件をチェックした上で早めに取り組むのが望ましい。調べてみると、意外に少ない負担で建て替えできるかもしれないし、反対にさまざまな問題が山積しているケースもあるだろう。

 最近は、南海トラフ地震への懸念が強まっており、台風や豪雨被害なども頻発・激甚化しているので、老朽化したマンションは早急に建て替えを進める必要がある。まずは、現状を確認した上で、コミュニケーションしやすい所有者間から話し合いを進め、徐々に区分所有者全体に建て替えの機運を高めていくことが必要だ。

【山下和之(やました・かずゆき)】
住宅ジャーナリスト。住宅・不動産分野で新聞・雑誌・単行本などの取材、原稿制作、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入絶対成功させる完全ガイド2022─2023』(講談社ムック)などの著書がある。