建て替え議論どころではない深刻な「所有者の高齢化」

 建て替えを難しくしている第三の問題としては、区分所有者の問題が挙げられる。

 竣工からの経過年数が長いマンションでは所有者の高齢化が進み、世帯主の平均年齢が60歳代、70歳代というマンションが多い。そうなると、収入面などから建て替えの費用を負担できないケースが増えて、建て替えに賛成する人も少ないため、簡単に建て替えを決議できなくなっているのだ。

>>【グラフ】マンションの建て替えに伴う区分所有者の平均負担額は?

 しかも、高齢の所有者は建て替え時に長い間の仮住まいなどは大変だから、多少住みづらくなっているにしても、現状で我慢した方がいいという後ろ向きの発想の人が増えてくる。

 そうしたマンションは、新たに若い世代が入ってくることはなく、ますます高齢化が進み、なかには空室が発生して「スラム化」する可能性もある。そうなると、建て替え論議どころではなくなってしまう。

 また、長い間に賃貸住戸が増えてくると、建て替えはますます難しくなる。

 賃貸住戸の所有者は遠隔地に住んでいることも多く、建て替えの話し合いを進めにくくなる。実際に自分が住んでいないので、居住性が低下していることへの認識が乏しく、建て替えに熱心に取り組んでくれない。中には居住用ではなく、事務所として利用されている住戸もあるため、建物の老朽化が進んでも、そんなに不便に感じないという所有者、賃借人も少なくない。

 居住性が低下したため、区分所有者が退去したりして空室になるケースも多い。所有者が亡くなって、相続人が住む意思がない場合にも空室が増えてくる。ただ、売却するにも買い手がなかなかつかず、放置されてしまい、中には管理が行き届かないため“ゴミ屋敷”のようになってしまうケースもある。

 そこまでいくと、外部から不審な人たちが出入りするようになり、防犯面でも問題が生じて、いよいよスラム化してしまう。そうなると、もう建て替えどころの騒ぎではなくなるだろう。