身近な憲法第14条を扱ったに過ぎないのだから、政治的ではない。突飛なエピソードは登場せず、男女差別や民族差別、同性愛への偏見が描かれただけ。誰もが見聞きしている問題なのである。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより
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 日本のドラマがつまらない理由の1つは、クレームを恐れて無難なストーリーの作品ばかりつくるから。米国のドラマにはオバマ元大統領ら実在の政治家に扮した俳優が頻繁に登場する。からかわれることも多い。9・11テロなどの政治的問題も描かれる。人種差別など現実にあるすべての差別がテーマとして出てくる。表現の自由が確立している。

 今週の放送も政治的と捉える人が出るかも知れない。被爆者5人が国に賠償を求めた「原爆裁判」の判決が出るからだ。1963年のことである。

裁判長も左陪席も判決を回顧しているのに…

 この裁判は98回(1955年)から断続的に審理が続けられてきた。寅子は右陪席(次席)裁判官として最初から最後まで8年も審理に加わった。嘉子さんも同じである。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより
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 退官後の嘉子さんは自分の関わった裁判に関することをかなりオープンにした。ところが原爆裁判に関しては何も話さなかった。守秘義務が理由ではない。裁判官の場合、憲法第21条で「知る権利」が保障されているため、公益性のある情報は明かせる。元最高裁判事たちが回想録を書けるのもこのためである。

 原爆裁判の裁判長だった古関敏正さんは後に「あの判決は正しい」などと自己評価している。嘉子さんの後輩で左陪席裁判官を務めた高桑昭さんも判決を下すまでの経緯などを明かしている。ところが、嘉子さんは沈黙を続けた。