(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年8月27日付)
中国南部・広州市郊外の番禺区に真昼の太陽がさんさんと降り注ぐなか、1時間前にはまだ建設中の道路上でトラックが荷物を運ぶ音と女性用の洋服を次々はき出すミシンがうなる音だったものが静寂に包まれた。
衣類生産で知られる地区――ファストファッションの電子商取引(EC)プラットフォーム「SHEIN(シーイン)」で販売される洋服の生産で果たす中核的な役割から、中心部が「希音村(シーイン村)」と呼ばれる一角――は休憩を取っていた。
工場の生産現場からオフィスビルに至るまで、中国の職場で一般的な儀式的な昼寝の後に再び姿を現すまで、労働者は持ち場の床にもぐり込む。
ロンドン上場目指すファストファッションの新星
中国発の新興企業で、直近の資金調達ラウンドで企業価値が660億ドルと評価されたシーインは今後数カ月内にロンドン市場で株式を上場することを目指しており、新規株式公開(IPO)案件に飢えた英国の証券取引所に待望の追い風を与えようとしている。
2020年代に入る頃にファッション界で爆発的な飛躍を遂げ、あり得ないように思えるほど安い価格(5ドルのドレスや2ドルのTシャツなど)でスペインのZARA(ザラ)やスウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)といった欧州の競合企業を脅かしたことで、シーインの商品を生産している労働者の賃金に対する疑問が浮上した。
だが、シーインのサプライチェーン(供給網)の中心部を訪れると、商品が安いのは「人件費のおかげ」ではなく「人件費にもかかわらず」であることがはっきりした。
中国では、生産年齢人口が減少し、若い出稼ぎ労働者が工場の仕事を避け低賃金でもサービス産業を好むようになるなか、工場の人件費が上昇しているからだ。