1万人の衣食住から風呂まで自前で賄う「自己完結力」

 今回の地震では、被災地に派遣される救援部隊の補給路確保の重要さも改めて浮き彫りとなった。同時に自衛隊の「自己完結力」にも注目が集まる。

 自衛隊をはじめ世界中の軍隊は、原野や森林などを舞台とした「野戦」への備えが大前提で、もちろんここにはスーパーやコンビニ、弁当屋や自動販売機、さらには病院やガソリンスタンドはない。

 これを踏まえ、特に陸自の部隊は、食糧や飲料水、燃料、各種日用品はもちろん、宿営用資材や炊飯用器材、浄水器、大型洗濯機、入浴施設や医療サービス、トイレなど、「衣食住」に必要なものを、ほぼ全部自前で賄う能力を持つ。これが「自己完結力」で、「サステナビリティ(持続可能性)力」と言ってもいい。

自衛隊は被災地で活動する車両の”ガス欠”に備え、自前のタンクローリーも準備して現場で燃料補給(写真:陸上自衛隊第10師団Facebookより)

 駐屯地にいる平時は別にして、作戦中の部隊で「隊長、昼食の時間なので、そこのコンビニでおにぎり買ってきます」という光景はありえない。そもそも、戦場で営業中の店舗など通常あり得ず、また大部隊の食糧を現地調達に頼るのは無謀で、メシにありつけなければ、兵士(隊員)の士気・戦力は大きく低下する。昔からの格言「腹が減っては戦(いくさ)は出来ぬ」そのものである。

 自己完結力は衣食住だけにとどまらない。自衛隊全体で考えれば、陸海空あらゆる輸送手段や、各種の重機を備える建設部隊(施設部隊)も有する。自衛隊にとって自己完結力は、継戦能力(戦い続けられる能力)そのものでもある。

 特に能登半島のように、外部と連絡する道路が寸断されると、住民が必要とする食糧や飲料水をはじめ、あらゆる物資の供給が不足する。そこで、「自己完結力」のない集団が支援活動に大勢訪れ、「お腹がすいたけど夕飯は何?」「トイレの紙がないけど?」「スマホの電源はどこ?」など、普段の生活の延長線で現地調達に走れば、被災地はさらなる負担に音を上げてしまうだろう。

 今回も全国から多数の一般ボランティアが支援に名乗りを上げる。だが、こうした事情を考え、政府や地元自治体などは、被災地のインフラがある程度復旧するまで控えてほしい、と呼び掛ける。

 ところが、自衛隊の「自己完結力」は一般には意外と理解されておらず、中には「ボランティアの受け入れ態勢の整備が遅すぎる」との不満の声もあるという。

入浴施設「伊達の湯」。仙台に駐屯する陸自後方支援隊が駆け付け被災地に設営した(写真:陸上自衛隊第10師団Facebookより)